もうだいぶ前の話だが20歳のころ世話になってた先輩が俺をLAに連れてってくれた。
海外なんて行ったこともなかった俺は現地でパシリにされるなとは思いつつ、ウキウキだった。
実際LAは本当に楽しかった。映画とかで見るようなアメリカを感じてワクワクが止まらなかった。
そもそも着いたとたんから、気温は高いのに湿度が全然ないだけでこんなに気持ちいいのかと驚いた。
食べ物はけっこうヤバかったが映画が好きだった俺はそれも映画の世界に入ったみたいで楽しかった。
そしてそんなLA旅行の中でも忘れられないのがサンタモニカだ。
サンタモニカのビーチにはサンタモニカ・ピアという小さな遊園地みたいなのが併設されてる。
俺は沖縄にも行ったことがないし、そもそもきれいな海を見たことがなかった。
だからそのサンタモニカで見た夕焼けに包まれるビーチにほんとうに心を打たれた。
今でもハッキリ思い出せる。サンタモニカ・ピアの桟橋でシャボン玉を飛ばす小さな女の子と、レトロな色合いでピカピカ光る遊園地、キラキラとオレンジ色に染まって輝く海と夕日。
自分が当時精神的にも肉体的にもベストコンディションだったのもよかった。今ではすっかりひねくれてアメリカは好きじゃなくなってしまったが当時はアメリカっていいなーって思っていたし。
目に映る人々がみんな幸せそうに笑っていて、俺はこんなに幸せな場所があるのか、これこそがパラダイスなんじゃないかって本気で思った。
なにか胸がぎゅっと苦しくなるような切なさもあった。それはこの美しさはほんの一瞬の輝きだって分かっていたからだ。
だからこそその瞬間をまるごと目に焼き付けた。そしてその体験は俺にとってどんな人の言葉より、100万もらえるより、ずっと長く俺の心を豊かにしてくれているのだ。
どうしてたまたま見れた景色がそこまで心を豊かにしてくれるのか俺には分からない。でも実感としては確実にそうだ。
俺は元々インドアな人間だったけど、その経験をしてから旅行が少し好きになった。
東京に住んでるせいか、人混みが過ぎる狭いとこでは感動的な景色に出会うのはやっぱりなかなか難しいなと思う。
NYにも行ったんだがそちらでは感動する景色には出会えなかった。(LAも人は多かったはずだが道とか場所のゆとりがありまくりで混んでる印象がなかった)
でも人の多さ以外はそれほど難しい条件があるわけじゃないと気付いた。海外である必要もない。
もちろんそこは個人差があって、人それぞれに違うとは思うが。
そして心に染み渡るような景色に出会うには、ある程度場所も大事だが、同じくらい重要なのは時間帯だと今は思うようになった。
例えばどこか山のほうに行くとする。自然に溢れた景色はそれだけで癒やされるものがある。
だけど、日の出前の時間に外に出て湖畔に行ってみると同じ場所でも世界が変わる。
世界に自分一人だけかと思うような静けさのなかに朝もやが立ち込めている。
全然違うのだ。癒やされるとかじゃない、あまりの静寂と美しさに心が震えるとしか言いようがない。
いつでもあの静けさの中に戻っていける。その時の空気を肌で感じられるくらいに。そして俺は気分が落ち着くのだ。
あとは最初に見るというのはやっぱ大事なんだなと思う。感動する景色というのは最初が肝心だ。
二度目も美しさは感じられるけど、やはり最初のインパクトには及ばない。
その最初の一発に出会うためには、結局できるだけ数をこなすしかないのかもしれない。
俺はあまり金もないし暇もない。でもこの先の人生も、そういった景色にどれだけ出会えるかを最大の楽しみにして生きていくつもりだ。