彼女は目を閉じて、ゆっくりと唇を近づけた。胸の鼓動が激しくなり、頬に熱がこもるのを感じる。初めてのことじゃないけれど、毎回緊張する。
「もう少し…そう、ゆっくり…」
彼の声が耳元でささやかれると、彼女の手は微かに震えた。緊張を和らげるように彼の指が優しく彼女の手を握る。
「いいよ、焦らないで。ゆっくり、丁寧にね」
彼女は彼の言葉に励まされるように、自分のペースで続けた。唇が柔らかく触れる瞬間、小さく息を飲んだ。感触を確かめるようにゆっくりと押し当て、指先にまで力をこめてしまう。
「強すぎないように、軽く触れるくらいがちょうどいい」
優しくも的確な指示を出す彼。彼女はそれに応えるように微妙な加減を繰り返した。額に汗がにじみ、二人の吐息だけが静かな空間に響いた。
「あっ…」
「大丈夫、よくあることだよ。気にせずそのまま続けて」
彼女は小さく頷き、唇を再び慎重に動かし始める。完璧なリズムを掴むのは本当に難しい。だが彼の的確な助言で徐々にコツをつかみ、動きがスムーズになっていく。
「そう、その調子。ほら、だいぶ上達したよ」
彼の褒め言葉に、彼女は誇らしげに微笑んだ。緊張が解けてきたのを感じると、ますます大胆に動きを加速させる。
そしてついに、彼女は満足げに息を吐き出して顔を上げた。彼も嬉しそうに微笑んでいる。
彼はそう言って、テーブルの上の小さな布巾を手渡した。彼女はその布巾で、ピカピカに輝く真鍮製のトランペットのマウスピースを丁寧に拭いた。