2025年、ドナルド・トランプ氏が再びアメリカの大統領に就任しました。この再登場は、国際社会にとって小さくない衝撃でした。というのも、彼の政策スタイルは一貫して大胆かつ予測が難しく、特に「アメリカ第一主義」を掲げた通商政策や外交戦略は、国際的な秩序や協調体制に大きな揺らぎをもたらしているからです。
たとえば、彼の高関税政策や、NATO(北大西洋条約機構)など既存の同盟関係の再交渉は、国際経済の安定に欠かせないサプライチェーンを不安定にし、各国の企業や消費者に不確実性を与えています。アメリカがこれまで果たしてきた「国際秩序のリーダー」としての役割が後退し、代わって中国やロシアといった他の大国が台頭するという地政学的な変化も進んでいます。
こうした背景のもと、私たちは改めて「国際社会とは何か」「アメリカの立ち位置とは何か」を考える必要があるのかもしれません。
では、こうした国際的な不安定化を招く政策が、なぜアメリカ国内で支持を集めているのでしょうか。
その一つの答えが、「ラストベルト(Rust Belt)」と呼ばれる中西部の工業地帯にあります。
この地域では、かつて繁栄した製造業がグローバル化の進展とともに衰退し、多くの人々が雇用の喪失や生活水準の低下を経験しました。トランプ氏は、そうした「取り残された人々」に対して、保護主義的な政策を通じて経済的な回復を約束しました。
もちろん、専門家の中には、彼の関税政策が逆に物価上昇を招き、長期的にはアメリカ経済にマイナスの影響を与えるという懸念を示す声もあります。実際、関税をかけられた輸入品の価格が上昇すれば、一般消費者の生活にも影響が出ますし、国際的な孤立は輸出や外交面でも不利益を招く可能性があります。
それでも、ラストベルトの支持者すべてが感情的にトランプ氏を支持しているわけではありません。中には、彼の政策の背後にある理念に強く共鳴し、理性的な判断のもとで支持している人たちも存在します。
たとえば、「グローバル化によってアメリカの競争力が削がれた」「安価な外国製品や海外移転で雇用が奪われた」という見方は、単なる主観ではなく、一定の現実に基づいています。また、「アメリカが世界の秩序を維持するために過剰な負担を強いられてきた」との考え方も、近年の外交コストの上昇や国民の戦争疲れを背景にすれば理解しやすいでしょう。
つまり、トランプ支持は一部の人にとって、アメリカの役割を見直し、「内に目を向けよう」という自己再定義の試みでもあるのです。
さて、日本に目を向けると、トランプ氏の政策に共感する声はかなり限られています。これは、日本がこれまで自由貿易と国際協調を重視し、アメリカとの同盟関係を外交の基軸に据えてきたことと深く関係しています。
しかし、近年は「日本も過度に国際社会に依存しすぎているのではないか」と考える人たちも少しずつ現れています。彼らは、「自国のことは自国で守るべきだ」「国際援助よりも国内の課題を優先すべきだ」といった立場から、トランプ氏の「自国優先主義」にシンパシーを感じているようです。
こうした考え方は、日本の経済や安全保障の「自立」を重視する立場と重なる部分があり、トランプ支持というよりも、「グローバル化のあり方を見直したい」という共通の問題意識に基づいていると見ることもできます。
現時点では少数派であるものの、日本でも今後、トランプ的な価値観に共感する人が増える可能性は否定できません。
特に、経済格差や地方の過疎化といった国内課題への不満が高まる中で、「外より内」「他国より自国」といったシンプルなメッセージは、一定の魅力を持つからです。
また、世界的なポピュリズムの潮流、つまり「既存のエリート政治に対する反発」や「自国のアイデンティティを取り戻そう」という動きは、ヨーロッパやアメリカだけでなく、日本でもその萌芽が見られるようになってきました。
トランプ氏の政策は、世界の枠組みを大きく揺るがしています。そしてその影響は、アメリカ国内の支持層だけにとどまらず、遠く離れた国々の人々にも新たな問題提起を投げかけています。
私たちが今、注目すべきなのは、こうした動きが単なる一時的な現象ではなく、グローバル化への見直しや各国のアイデンティティの再構築といった、より大きな流れの一部であるということです。
国際政治の動きを理解するうえで大切なのは、「誰が正しいか」という二元論ではなく、「なぜこうした考えが支持されるのか」「その背景には何があるのか」といった問いを持ち続けることです。