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2025-02-26

「ああ、それはちょっと困った話ですね」と僕は言った。

「うん、そうだね」と君は言った。君はカフェラテの泡をスプーンですくいながら、どこか遠い目をしていた。

吉本ばななという名前のついた本が、彼女の書いたものでないとしたら、それはもう僕たちの知っている現実が少しだけズレてしまった、そんな気がしてくる。まるでカフカ的な世界入口に足を踏み入れてしまったような。でも本屋の棚に並ぶそれは確かに吉本ばなな」の名をまとっていて、誰かがそれを書いたのだ。僕はそういうのが少し怖いと思う。

「間違えて買わないでください」と彼女は言った。それは正しい言葉だ。でもたぶん、間違えて買ってしまった人は、その本のページをめくりながら、どこかで違和感を感じるんじゃないかな。「あれ? これは本当にばななさんの言葉なのか?」ってね。そういう風に、世界ときどき奇妙なふうに歪んで見える。

君は静かにカフェラテを飲み干し、「本当のばななさんの本が読みたくなってきた」と言った。

僕は静かにうなずき、遠くで鳴っているジャズの音に耳を傾けた。

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