最後の1000円をサンドに入れる瞬間だけが、本物のギャンブルだ
市川の倉庫で、俺の指先が死にかけてる。海岸沿いの倉庫で、俺の爪元から血がにじむ。段ボールの角で裂けた手ぶくろからは、昨日のパチンコ屋でついた黒い油がにじむ。それが今の俺の勲章だ。
日払いの1万2千円は、送迎バスのバス停車する行徳駅前のパチ屋へ直行する。
メダル買う瞬間だけが、心臓が温まる。あの鋼鉄の箱がゴォォンとうなる音、液晶に映るマリンちゃんの微笑み。
沖縄の海で泳いでいた頃の彼女を、俺はまだ忘れきれてねえらしい。
最後の千円札がサンドに吸込まれる時、いつも幻覚が見える。マリンちゃんの水色のビキニが汗で透け、珊瑚の匂いが鼻腔を焼く。
「また会いに来てね」と唇が動く刹那、サムというゴミ屑が画面を覆いつくす。
現実は常に凍りつくの倉庫で、俺の背中に配送トラックの排ガスを吐付ける。珊瑚の匂いなんか知らねえ.
コンビニのストゼロ、なんの味もしねえ。バナナを齧ると歯ぐきから血が出る。
ベニヤを隔てた隣室から聞こえるパチスロ動画の音が、俺の子守唄だ.
マリンちゃんがいた沖縄の海は33度だった。市川の倉庫は永遠に5度。