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2025-02-14

電脳の檻

電脳化が実用化されてから100年、日本世界でも最先端サイバネティクス国家となっていた。

まれた瞬間から人々は電脳を与えられ、現実仮想が融合する世界で生きるのが当たり前になった。しかし、その電脳技術には一つの奇妙な制約があった。

日本国内で電脳化された者は、自身視覚データ自動モザイク処理が施される。性器に対するモザイク法律義務化され、すべての電脳視覚デバイスにはそれを強制するフィルターが組み込まれていた。

政府は「文化的価値観の維持」と「精神健康保護」を名目にこの処置正当化し、国民はそれを受け入れるほかに選択肢はなかった。

しかし、国外ではこのモザイク処理嘲笑の的となり、密かにそれを除去する違法パッチが開発されていた。「フォビドゥン・アンヴェイル」と呼ばれるそのプログラムは、海外のダークウェブ密売され、一部の者たちは誘惑に駆られて導入した。

ただし、このパッチには深刻なリスクが伴った。

モザイクを解除する際、電脳視覚処理に介入するため、パッチ暴走すれば視覚認識のもの崩壊する危険性があった。

過去には、パッチを導入した者の脳が錯乱し、視界全体が無秩序モザイクで埋め尽くされる「全視覚崩壊症候群」に陥るケースも報告されていた。それでも、禁断の果実を求める者は後を絶たなかった。

「試してみるか?」

バーの片隅、暗い個室で男は小型のデータチップ差し出した。受け取るのは、サイバーセキュリティ企業に勤める青年斉藤

「危ないって話もあるが……」

大丈夫さ。成功すれば、自由な視界を手に入れられる。日本電脳はあまり管理されすぎてると思わないか?」

斉藤は迷った。政府電脳監視システムは厳格だが、彼のようなシステムエンジニアなら、ある程度のリスク管理はできるはずだった。

「……やる。」

チップ電脳スロットに挿入した瞬間、世界が一瞬だけ暗転した。

そして、彼の視界は変わった。

モザイクのない、真の現実が──見える。

だが次の瞬間、視界が歪んだ。

モザイクは消えたはずだった。だが、代わりに現れたのは、世界中のあらゆるものが不規則ノイズ化し、揺れ動く異形の風景だった。

「あ……?」

脳が悲鳴を上げる。

それはモザイクの除去ではなかった。世界のものが崩れ、彼の電脳制御不能に陥っていた。

数日後、斉藤発見された。

彼の目は完全に焦点を失い、視界のすべてがモザイクに覆われたまま、二度と戻ることはなかった。

電脳化された日本では、自由を求めることさえ許されない。

彼のように、禁断の真実に手を伸ばした者の末路を知る者は多い。

それでも、次なる“挑戦者”は現れるのだった。

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