ARTIST PICK UP
さだまさし
四季という、自然からの稀有な贈り物を授かった僕らは、その美しさに気付いているのだろうか。
そしてそれに育まれた「和の心」の美しさに。美しい国、日本…そこに住む人々を、
優しく、時に哀しく描き出すさだまさしの新作は、そんなことを僕の心に語りかける・・・。
(初出『Groovin'』2006年9月25日号)
さだまさしの最新アルバム『美しき日本の面影』を聴いた。前作『とこしへ』から1年、20年間続けた平和祈念野外コンサート「夏 長崎から」にピリオドを打った彼から届いた新譜は、実に彼らしい、美しい言葉と旋律によって綴られた作品だ。
四季という、稀有な贈り物を自然から与えられた国、日本。今作はそんな「日本」に生きる僕らへと、彼の優しい眼差しを通して改めてこの国の「美しさ」、そしてそれに育まれた「心」を見つめ直そうと語りかけている。
収録されている歌は、日本の四季を巧みに織り込みつつ、それでいてことさらにそれを強調することのないよう絶妙なバランスが保たれているのはさすがの一言。また音作りにも楽しめる要素が散りばめられている。例えば「天然色の化石2006」に於けるクラシックの経験に裏打ちされたオーケストレイションは、スケールの大きい楽曲の世界観をより感じさせるし、グレープ当時の盟友、吉田政美氏を3曲でゲストに迎えるなど、往年のファンには嬉しいプレゼントも用意されている。
だが「この国の風土の持つ美しい季節感を通して、この国の人々の心を歌おうと思った」という彼は、決して「日本の美しさ」を讃えるためだけにこの作品を作ったのではない。むしろ、彼にこの作品を生み出させたものは、強い危機感であったようだ。更には「僕たちの美しい日本が、そこに住む人の心からゆっくりと壊れつつある」と感じているのは、おそらく彼だけではないだろう。「愛してくださいと声も出さずに叫んでいる子供達」(「鉢植えの子供」歌詞より抜粋)、その歌詞からも伝わるようにTVを見れば哀しいニュースが流れ、「空も海も森もみんな僕たちが壊してしまった」(「天然色の化石2006」歌詞より抜粋)と思うほど、自然は疲弊してゆく。本来愛すべきものを、いつの間にか僕らはないがしろにしてきてしまった。その思いが彼を改めて「日本の美とそれに培われた人々の心」に対峙させるきっかけとなったのではないだろうか。そして「泣いてもいいよ こらえなくてもいいよ」(「桜桃」歌詞より抜粋)と語りかける。そう、人生は、四季のようなものだ。厳しい冬もあれば優しい春もある。季節が巡るように人は出会い、別れてゆく。それでも「冬に季節が死ぬ訳じゃなくて 冬は春を生み出す力」(「サクラサク」歌詞より抜粋)だと勇気づける。季節が春から始まり、冬を過ぎればまた春が来るように、もう一度僕らの原点に戻ろう、そして思い出そう、「心」を。そう彼は語りかけているのだ。
どうだろうか、肩肘張らずに彼のアルバムを聴いて「美しい日本の面影」を探す旅に出てみてはいかがだろう?時間は1時間ほどだが、きっと美しい「心の四季」を楽しめることは間違いない。
Text by 栗原 淳(羽村店)
『美しき日本の面影』
フォアレコード
発売中
CD
FRCA-1165
¥3,300(税込)
前作より1年、さだまさしが紡ぎ出す「日本の美、四季」。季節の移ろいにも似た人々の営みを優しく見つめる歌詞は、まさに彼ならではの美しい言葉で綴られています。ゲストに盟友、吉田政美を迎えた3曲は、グレープ時代からのファンへのBigプレゼント!ご期待あれ!! オールカラー36Pブックレット付き。初回限定BOX仕様。
【さだまさし Official Site】http://www.sada.co.jp/