1964年に実施された「スネークイーター作戦」から10年後。ザ・ボスを失ったスネークは南米コロンビアで私設軍隊を設立し、その指導者となっていた。彼らは国家を捨て、自らの意思で戦う軍隊だったが、海岸に不法占拠している状態だった。 ある日、私設軍隊の副指令カズヒラ・ミラーがコスタリカ国連平和大学のガルベス教授と、その教え子パスを連れてくる。彼らは軍隊を放棄した平和憲法を持つ国・コスタリカに謎の武装勢力が駐軍していると訴えた。そしてスネーク達の拠点として洋上プラントを提供するかわりに、抑止力になって欲しいと願うのだった。しかしスネークはガルベスの正体がKGBだと看破し、その謎の武装勢力がCIAの手によるものだと察知した。コスタリカは「アメリカ大陸のヘソ」であり、軍事上の重要拠点でもあるからだ。祖国との対立を回避すべく断ろうとするスネークに、ガルベスはひとつのテープを聴かせる。それは死んだはずのスネークの恩師であり最愛の人……ザ・ボスの声だった。スネークはザ・ボスの生死を確認するために、ガルベスのミッションを引き受けるのだった。
FSLN(サンディニスタ民族解放戦線)と協力して謎の武装勢力の実態を調査しているうちに、彼らがコスタリカに核兵器を持ちこんでいることを知る。そして、ヒューイと呼ばれる車椅子の科学者が「ピースウォーカー」という新兵器を開発していたことも判明した。 コスタリカでは、CIAのコールドマンが立案した「ピースウォーカー計画」が遂行されていたのである。その計画とは「高度な人工知能(AI)によって制御された、自動操縦二足歩行型核搭載戦車」を開発、自動かつ確実な核報復体制を築くことで、核抑止力を生み出そうとしていたのである。そのための核弾頭発射テストが、このコスタリカの地で行われようとしていたのだ。 スネークはヒューイと接触し、ピースウォーカーの核実験を未然に防ごうとする。そのためにAIの専門家であるストレンジラブのもとに向かう。彼女はスネークイーター作戦も、ザ・ボスのことも知っており、「最も高潔な人格の持ち主である伝説の兵士「ザ・ボス」をAI「ママルポッド」として甦らせようとしていた。 「ママルポッド」を入手しようとするスネークの前にAI搭載水陸両用戦機「ピューパ」、AI搭載垂直離着陸戦機「クリサリス」、AI搭載超級戦機「コクーン」が立ちはだかる。やがてスネークは「ママルポッド」が搭載された「ピースウォーカー」と対峙するが、コールドマンによって阻止されてしまう。捕えられたスネークは「ママルポッド」にザ・ボスの最期の任務を入力するために、監禁され、尋問を受けるのだった。
コールドマンたちは「ママルポッド」を完成させ、スネーク達の洋上プラントを目標に「ピースウォーカー」の最初の核実験を行おうとする。起動した「ピースウォーカー」はスネークの排除を第一優先に動くと、戦闘ののちニカラグアにあるアメリカのミサイル基地へ向かった。そしてコールドマンが核発射コードを入力しようとしたとき、ガルベスが現れる。ソ連兵がニカラグア基地を制圧していたのだ。
CIAとKGBの対立、そして核発射直前のピースウォーカー……絶体絶命の中、スネーク達の存亡を賭けた戦いが始まる。
本作は『メタルギア』サーガ(本史)初の携帯ゲーム機プレイステーション・ポータブル用ソフトである。以前、同じPSP向けに開発された『メタルギア ソリッド ポータブルオプス』から採用された部隊を運営するというシステムをベースに、部隊が屯する基地を運営するという側面を加えた「オペレーション」の要素と、従来の『メタルギア』シリーズでおなじみの敵基地に潜入して作戦活動をこなす「ミッション」の要素を融合させた。
そして本作で最も特徴的なのは、協力プレイ「CO-OPS」である。一つのミッションを複数人で攻略する事で、アクションゲームが苦手な人もフォローできる様になった。スネークフォーメーションや心臓マッサージなどの独自アクションも『メタルギア』ならではだ。PSP本体の基本機能であるアドホック通信機能を用いて、手軽に気軽に通信プレイをできる為、今作を契機に『メタルギア』を始めたというプレイヤーも多く生まれた。
本作の完成披露会において、小島秀夫監督は「MGSのナンバリングタイトルは、ハードの成長に対して縦の成長をしてきた。しかし今回は携帯ゲーム機とその先にある未来を見据えた横の可能性を追求した。」と語った。ハードと共に成長をみせてきた『メタルギア』シリーズは、きたるべき未来である「クラウドゲーミング」時代を見据えた今、どういう姿であるべきなのか? その答えの幾つかが本タイトルに結集されている。また今作のストーリーにおいてはメインミッションを進めれば全ての謎と答えが提示されるわけではない。隠されたモノも含めて「ブリーフィングテープ」を聞くことで、真相に辿り着く事ができるようになっている。小島監督にとっての新たなる挑戦の結晶は、同時に新世代のプレイヤーにとっての挑戦状でもある。
感情的で非論理的な判断を下しがちな人間ではなく。ただ論理的な演算を重ねてただ無情な判断を下すのでもなく。人間と機械の間――情動を論理的に鑑みたうえで、最善の判断を下す。そんな高潔なAI(人工知能)に世界の未来を委ねる事ができるとしたら。
『メタルギア』シリーズにある多くの魅力の内の一つは、実際の史実や年代に在り得た技術、またはサイエンス・フィクション(SF)の手法によって描き出されるメカニズムやテクノロジーである。強化骨格、ステルス迷彩、「愛国者達」ネットワークを構成する人工知能などがそれだ。
しかし本作品に登場する、巨大無人兵器、ママルポッド(AI)など、1970年代を舞台にした本作にとっては明らかに過度なオーバーテクノロジーが導入されている。冒頭で引用された考え方自体は、1945年の原爆投下以降にも議論され続けてきた内容だ。それは実現できるテクノロジーが当時は存在しなかったからだ。しかしもし天才的な科学者があの時代に実現してしまったら……。このような、それまでの価値観を激変させる事は「パラダイムシフト」と呼ばれ、史実では「万有引力の法則」や「DNAの二重螺旋構造」の発見などがそれに当たる。
『メタルギア』シリーズには、ネイキッド・スネーク(ビッグボス)からソリッド・スネークへと物語的なシフトタイミングが存在する。つまり本作のプレイヤーであるビッグボスの中にある種の「パラダイムシフト」が起こり、主人公がソリッド・スネークへと変遷していくのだが、それと同時にソリッド・スネークを待ち受ける運命として、ビッグボスがオーバーテクノロジーを手にする必要がある。カズヒラ・ミラーの云う「戦争はビジネスなんだ」というのも、1970年代の戦争においては「パラダイムシフト」だ。それが今作の私設部隊のマネジメントというゲームシステムとなって組み込まれている。2つあるエンディングの1つを終えると、敵方の科学者が仲間となり、武器・装備・アイテムに至るまで、現代でもギリギリな設定のオーバーテクノロジーグッズが生産可能になる。そして、2つのエンディングを迎える頃には……。
「戦争における新たなる価値観」に「過度なオーバーテクノロジー」。これを1970年代に獲得してしまったビッグボスに起こった――後のMGSシリーズの仕掛けである、遺伝子操作によるハイテク特殊部隊(MGS1)・人工知能による言論統制(MGS2)・完全管理による戦争経済(MGS4)、にも繋がっていく――「パラダイムシフト」。それが本作に隠された真実ではないだろうか。