中国 ロシアへゲーム機の輸出急増 なぜ?背景に軍事転用か
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、中国からロシアへのビデオゲーム機や付属品の輸出が急増していることがNHKの分析でわかりました。専門家は、ゲーム機のコントローラーが軍事用の無人機を操縦する装置に転用されている可能性が高いと指摘しています。
【NHKプラスで配信】ニュース7
ロシアは軍事用の無人機を大幅に増産していて、プーチン大統領は、150万機以上が去年、生産され、おととしの10倍以上になったと明らかにしています。

こうした中、中国の税関当局が公表しているデータをNHKが分析したところ、中国からロシアへのビデオゲーム機やコントローラー、付属品などの輸出額が、去年、9500万ドルあまり、日本円にしておよそ130億円にのぼり、ウクライナ侵攻が始まった2022年と比べると7倍近くに増加していることがわかりました。

また、ことし1月から3月の輸出額も2022年の同じ時期と比べて3倍あまりにのぼっています。
各国によるロシアへの制裁に詳しいウクライナのシンクタンク、キーウ経済大学研究所のオレナ・ビロウソバ研究員は「経済状況が厳しいロシアでゲーム機の民間需要が急増しているとは考えにくい。中国からのコントローラーが無人機を操縦する装置に軍事転用されている可能性が高い」という見方を示しています。
その上で「中国からは制裁をう回する際などにかかる追加コストなしで直接輸入できる。中国との結びつきがロシアにとってコントローラーなどの機器を短期間かつ低コストで入手する助けになっている」と指摘しています。
ゲーム機のコントローラーをめぐっては、軍事転用のおそれがあるとして、ことしに入って、EU=ヨーロッパ連合をはじめ、イギリスや日本もロシアへの輸出を原則禁止すると発表しています。
これについて、中国外務省はNHKの取材に対し「中国はこれまでいかなる紛争当事者に対しても殺傷能力のある兵器を提供したことはなく、軍民両用の物資についても厳格に管理している。中国は、悪意のある根拠なき非難や政治的な操作に断固反対する」と主張しています。
一方、ゲーム機関連の輸出規制など具体的な対応をとっているかどうかは明らかにしていません。
中国 輸出業者「通常のゲーム機として申告すれば問題ない」

中国のSNSを検索すると、ビデオゲーム機などをロシアに輸出しているとする複数の業者のアカウントがみつかります。中には、多くのゲーム機のコントローラーが箱詰めされた写真を投稿し「当社に委託すれば、通関込みでロシアまで輸送可能」と宣伝しているものや、さまざまな種類のコントローラーの動画とともに「ゲーム機はロシアで爆発的に売れている」などと紹介しているものもあります。
北京の輸出業者に電話で問い合わせたところ、ロシアへのゲーム機関連の輸出が増えているとして「この2年間はずっと輸送量が多く、倉庫はほぼ毎日満杯の状態だった。増えたのは主にコロナ禍のあとで、戦争が始まってからだ」と話していました。
また、北京の別の業者は、ゲーム機のコントローラーが無人機を操縦する装置に転用されるおそれがある中でもロシアに輸出できるかどうかについて「無人機への使用や軍事関連の用途には一切言及しないで、通常のゲーム機として申告すれば問題ない」と説明しました。
さらに、広州の業者は「グレーな状態なので、コネで頼んで運び出す。要は、お金を追加で払えばいい。結局は、みんなもうけが出るからやめられない」と話していました。
エストニア情報機関“中国国内の製造業者などが抜け道”

ロシアと国境を接するエストニアの情報機関は、ことし2月、安全保障に関する報告書を公表し、この中で「ロシアは無人機の生産において、重要な部品を中継地を介して手に入れており、各国の制裁の効果は限られている」と指摘しています。
その上で「推計では、制裁対象となっている西側諸国の部品のうち最大で80%が中国を経由してロシアに到達している。中国国内の製造業者や卸売業者、仲介業者らがほぼ間違いなく抜け道となっている」としています。
一方、中国政府は特定の無人機や部品の輸出を規制しているものの、中国の民間業者からの秘密裏の供給は続いているとして「中国が依然として、ロシアがハイテク製品や軍民両用の物資を輸入するための主要な拠点となっている」と懸念を示しています。
EU・英・日本はロシアへゲーム機など輸出禁止に
EU=ヨーロッパ連合はことし2月、ロシアがウクライナ侵攻を開始してから3年となるのに合わせてロシアへの追加制裁を決定しました。
この中で、戦場で無人機を操縦するためにビデオゲーム機のコントローラーが軍事転用されているとして、ロシアへの輸出を原則禁止しました。
また、イギリス外務省は先月、ロシアへの制裁の一環としてゲーム機のコントローラーの輸出を全面的に禁止したと発表し「今後、ゲーム機がウクライナで人を殺すために転用されることはなくなる」としています。
日本政府もことし1月に、軍事転用のおそれがあるとして、ゲーム機や関連機器のロシアへの輸出を禁止しました。
専門家“輸出に関わった中国企業に制裁を科すべき”

各国によるロシアへの制裁に詳しいウクライナのシンクタンク、キーウ経済大学研究所のオレナ・ビロウソバ研究員は、ロシアが増産している軍事用の無人機について「非常に迅速に生産を拡大でき、砲弾など従来の兵器が不足している中でも無人機を類似の作戦や目的に使用できる」と述べ、戦場での重要性が増していると指摘しました。
その上で「経済状況が厳しいロシアでは必需品の消費が優先され、ビデオゲーム機の民間需要が急増しているとは考えにくい。中国からのコントローラーが無人機を操縦する装置に軍事転用されている可能性が高い」という見方を示しました。
さらに「中国からは制裁をう回する際などにかかる追加コストなしで直接輸入できる。中国との結びつきがロシアにとってコントローラーなどの機器を短期間かつ低コストで入手する助けになっている」と述べ、中国が各国からの制裁の抜け穴となっていると懸念を示しています。
こうした状況への対策についてビロウソバ研究員は、ロシアへのゲーム機のコントローラーなどの輸出に関わった中国の企業に対して、ヨーロッパやアメリカ市場でビジネスを行いにくくするために制裁を科すべきだと訴えています。
中国外務省「殺傷能力のある兵器を提供したことない」
中国外務省の林剣報道官は8日の記者会見で、NHKの質問に対し「中国はこれまでいかなる紛争当事者に対しても殺傷能力のある兵器を提供したことはなく、軍民両用の物資についても厳格に管理している。中国は悪意のある、根拠なき非難や政治的な操作に断固反対する」と述べました。
一方、中国政府として、ゲーム機関連の輸出を規制するかどうかについては「詳しいことは担当部門に問い合わせてほしい」と述べるにとどめ、具体的な対応には言及しませんでした。