トランプ大統領“米がガザ地区所有”主張にアラブ諸国から反発

アメリカのトランプ大統領が、イスラエルのネタニヤフ首相との会談後に記者会見でアメリカがガザ地区を長期的に所有して再建するなどと主張したことに対し、パレスチナやアラブ諸国からは強い反発が起きています。

アメリカのトランプ大統領は4日午後、日本時間の5日朝、ホワイトハウスでイスラエルのネタニヤフ首相と会談しました。

その後の共同記者会見で、トランプ大統領は、パレスチナのガザ地区について「アメリカはガザ地区を引き継ぎ、われわれが仕事をする。ガザ地区を所有する。雇用と住居を無制限に供給する経済開発を行う」と述べました。

そして、所有は長期間になるとの考えを示した上で「私は世界の人々がそこに住むことを思い描いている。国際的で信じられないような場所になる。ガザ地区の可能性は信じられないほど大きい」と述べて、パレスチナの人々を含めて世界中から人が集まる場所にすると説明しました。

また、記者団から治安維持のためにアメリカ軍をガザ地区に派遣する可能性があるのか問われたのに対しては「必要であれば派遣する」と答えました。

一方、ガザ地区の住民の今後についてトランプ大統領は「ガザ地区は何十年もの間、死と破壊の象徴であり、その近くに住む人々にとって最悪だった。ガザ地区に住む180万のパレスチナ人が最終的に住むことになるさまざまな場所を建設する。死と破壊、そして、不運を終わらせる」と述べて、別の場所への再定住を進めるべきだとしています。

再定住の場所については「複数の場所になるかもしれないし、1つの大きな場所になるかもしれない」と述べるとともに、必要な費用は、近隣諸国が負担することに期待を示しました。

これについて、パレスチナやアラブ諸国からは強い反発が起きています。

イスラエルとハマスの間では、1月に停戦合意が成立し、現在は合意の第1段階として6週間の停戦期間中にハマスが人質を段階的に解放し、イスラエルが刑務所などからパレスチナ人を釈放するプロセスが進められています。

ハマスは続く第2段階と第3段階で恒久的な停戦を実現し、ガザ地区の復興に道筋をつけることを重視してきましたが、今回のトランプ大統領の主張によって、停戦合意にも影響を及ぼす可能性があります。

ネタニヤフ首相「注目に値する」支持する考え示す

これに対して、ネタニヤフ首相は共同記者会見で「注目に値すると考え、協議している。歴史を変える可能性があり、追求する価値があると思う」と述べ、支持する考えを示しました。

《トランプ大統領発言への各地の反応》

ガザ地区の住民からは反発

トランプ大統領がガザ地区を長期的に所有して再建するなどと主張したことについてガザ地区の住民からは反発の声があがっています。

このうち北部のガザ市に住む男性は「この土地は私たちのもので、私たちはここにとどまり、どのような圧力を受けようが、ガザ地区を再建します」と話していました。
別の男性は「パレスチナ人にとってよいことをトランプ大統領に期待したことは一度もない。ガザ地区を離れるくらいなら死ぬことを選びます」と話していました。

パレスチナ暫定自治政府 “呼びかけを断固拒否する”

トランプ大統領がガザ地区を長期的に所有して再建するなどと主張したことについて、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は5日「ガザ地区を所有しパレスチナ人を祖国から移住させるという呼びかけを断固拒否する」とする声明を出しました。

そのうえで「ガザ地区はイスラエルの占領下にあるヨルダン川西岸や東エルサレムと並んでパレスチナ国家に不可欠な土地だ」として、ガザ地区を含めた将来のパレスチナ国家の樹立を改めて訴えました。

ハマス “発言はパレスチナとガザ地区への無知を反映している”

一方、トランプ大統領がガザ地区を長期的に所有して再建すると主張したことについて、イスラム組織ハマスは5日声明を発表し「トランプ大統領の発言は、パレスチナとこの地区に対する深い無知を反映している。ガザ地区はイスラエルに占領されたパレスチナの土地の一部であり、不動産業者の考え方や力による支配の考え方では解決できない」と述べ、強く反発しています。

また、トランプ大統領がガザ地区の住民は別の場所へ再定住すべきとしていることについては「パレスチナ人は、周辺のアラブ諸国やイスラム諸国、それに自由を求める人々の支援を受けて、いかなる退去や追放の試みも阻止するだろう」と述べ、トランプ大統領の考えを強く拒絶し、抵抗していく構えを示しました。

サウジアラビア “パレスチナの権利侵害に反対”

サウジアラビア外務省は5日、声明を発表し「パレスチナ国家の樹立に向けたサウジアラビアの立場が確固たる揺るぎないものであることを確認する」と強調しました。

そのうえで「サウジアラビアはこれまでもイスラエルの入植地の政策や、土地の併合、そしてパレスチナ人を住んでいる土地から追い出す試みなど、パレスチナの人々の権利が侵害されていることに反対してきた。公平で恒久的な平和はパレスチナの人々が国際的な決議に基づき権利を獲得しないかぎり実現しないという、サウジアラビアの揺るぎない立場はアメリカの前政権にも、現政権にも説明済みだ」などとしています。

トランプ大統領は先月下旬にもパレスチナと境界を接するヨルダンとエジプトに対し、ガザ地区の住民の受け入れを求める発言をしていて、両国を含むアラブ諸国やパレスチナ暫定自治政府などが強く反発していました。

中国「パレスチナはパレスチナ人によって統治が基本原則」

中国外務省の林剣報道官は5日、記者会見で「中国は一貫してパレスチナはパレスチナ人によって統治されるのが、停戦後の統治の基本的な原則だと考えている。ガザの住民の強制的な移住には反対する」と述べました。

その上で「関係各国が停戦やその後の統治をきっかけに、パレスチナ問題について2国家共存を基礎とした政治的な解決という正しい軌道に戻し、中東の永続的な和平を実現するよう望む」と述べました。

林官房長官“日本は人道支援など積極的な役割果たす”

林官房長官は午前の記者会見で「トランプ大統領の発言は承知している。日本としては、ガザ地区で人道危機が継続していることを深刻に懸念しており、停戦合意の着実な履行を通じた人道状況の改善と事態の沈静化に向けて、当事者に対する働きかけを行っていく。関係国、機関とも連携しながら喫緊の人道支援に加え、中長期的な復旧・復興支援でも積極的な役割を果たす決意だ」と述べました。

◆トランプ大統領 1期目のガザ開発計画

トランプ大統領は政権1期目の2020年1月、「平和から繁栄へ」と名付けたイスラエルとパレスチナの和平案を発表し、このなかでガザ地区の経済開発についても触れていました。

当時の和平案では、ガザ地区で経済開発を行う前提条件として双方による和平合意に加えてイスラム組織ハマスを武装解除し、ガザ地区を完全に非軍事化することが盛り込まれていました。

そして前提条件が満たされた場合、ガザ地区では国際社会による大規模な投資が行われ▽道路や鉄道、▽電力や水のインフラ、空港が整備されるほか▽ガザ地区の沿岸には人工島も建設され、経済成長につなげるとしていました。

当時は資金の提供国としてサウジアラビアやUAE=アラブ首長国連邦など、湾岸産油国が念頭にあったとされていて、一連の経済開発を通じて、ガザ地区の海岸線は香港やシンガポールのような近代的な大都市として発展し、世界的な観光地になる可能性を秘めているとしていました。

また、和平案ではヨルダン川西岸の入植地などのイスラエルへの併合を認める一方、将来のパレスチナ国家の領土としてイスラエル南部のネゲブ砂漠の一部をパレスチナに割譲し、ハイテク工業団地や農業や住宅地を整備する地図も示していました。

ただ、こうしたトランプ政権1期目の和平案はイスラエル寄りの立場が鮮明だったため、パレスチナ側が明確に拒否し、多くのアラブ諸国も反発して、実現に向けて交渉が行われることもありませんでした。