もっと自己主張ができるようになりたい、争いごとへの対処がうまくなりたい、人前で自分の気持ちを言えるようになりたいなど、コミュニケーションスキルを磨きたいという願いは、誰もが持っていることでしょう。
筆者の職業はジョブコーチ。そのため、クライアントとの会話にはほとんど、コミュニケーションの話題が伴います。相談に訪れる動機は人それぞれ大きく異なりますが、これまでの会話を思い返すと、実際に話している内容はそれほど複雑なことではありません。多くの人がコミュニケーションの基礎でつまづいているのです。
そこで、クライアントとの会話から得られたコミュニケーション力向上のコツを、5つお伝えします。1つでも役立ちそうなものがあれば、ぜひ会話のスキルとして取り入れてみてください。
「そうですね、でも~」よりも「そうですね、それに~」
「いいアイデアですね。でも、違うやり方の方がいいと思います」と言ってませんか?
会話の相手は、「でも」という言葉を聞いた途端、あなたがアイデアを評価してくれたことなど忘れてしまいます。「でも」という言葉とそのあとに続く言葉のおかげで、前半のパートを完全にムダにしてしまっているのです。
「でも」という否定の代わりに、「それに加えて」という付け足しはいかがでしょう。「いいアイデアですね。それに、やり方を少しだけ変えると、もっと効果的になると思います」というと、だいぶ聞こえが違うでしょう。
『Bossypants』の著者、Tine Feyさんは、コミュニケーション力向上のためのルールを分析しています。そのルールの1つが、「Yes, and(そうですね、それに)」を会話に取り入れること。これにより、相手の意見を尊重することができます(賛同しかねる場合でも同様です)。
あなた自身も、相手のアイデアをもとに自分のアイデアを付け足していくことで、より会話に没頭できるようになります。これは、職場でのコミュニケーションでも同じです。
事実にこだわる
「彼女は私をやっつけようとしている」「ボスは私のことが嫌い」「上司は私を雇ったことを後悔している」など、根拠のないことをまるで事実のように語るクライアントがいます。
その場合、こう答えることにしています。「それは事実ですか? 上司が実際にそう言ったのですか? それとも、あなたが自分でそう結論付けているのですか?」
効果的なコミュニケーションだけでも難しいのに、根拠のないストーリーをそこに付け足すのはやめましょう。コミュニケーションは、事実の範囲内にとどめておく必要があります。どんな問題でも、その事実はあなたの想像と大きく異なる場合があります。単純に、上司にストレスがたまっていて、あなたに八つ当たりしているだけかもしれません。いずれにしても、事実を知るまではうわべだけの解釈を避け、問題の根源を把握することに努めた方がよさそうです。
「保身」をしない
職場でコミュニケーションの問題を語るとき、コミュニケーションそのものというよりは、保身について語られることが多いようです。
例えば、ミーガンとジェイソンの2人が、あるプロジェクトについて話しています。
ミーガン「このプロジェクトは今のチームには荷が重すぎます。ヘルプが必要です」
ジェイソン「いや、皆がもう少し残業をすれば、自分たちだけでできるはずだ。」
ジェイソンが「自分の言うことを聞いてくれない」ために、ミーガンのイライラが募ります。一方ジェイソンにとってミーガンは、いつも自分がどれだけ仕事に圧倒されているかを繰り返す、壊れたレコードのように感じられます。これでは、お互いの見解のもとになっている根拠について、有意義な会話が行われることはありません。
これをコミュニケーションとは呼べません。ここで行われているのは保身です。
コミュニケーションがうまい人は、自分のストーリーを繰り返し主張するのではなく、質問をして課題の両面を理解するように努力します。例えばジェイソンの立場であれば、「プロジェクトのどの部分が重荷になってる?」や、「何がネックになっているか、教えてくれないか?」と聞くといいでしょう。
ミーガンの場合、「どうやら私たちは、プロジェクトに対する見解がまったく異なるようです。残業で本当に問題が解決するかどうか私には疑問です」や、「プロジェクトの範囲を見直して、リソースを考慮したうえで本当にその残業が現実的なものかどうか、考えてみるべではないでしょうか?」など。
相手の考えていることを想像してみるだけで、あなたの不満は消え、ひとつ上のステージに立つことができるのです。
スティーブン・コヴィー著の『7つの習慣』では、「理解してから理解される」ことを説いています。自分の意見を理解してもらいたかったら、相手のことを理解する意思が必要なのです。
言葉と同様に沈黙を駆使する
多くの会話の生産性が低いのは、次に何を言おうかと心配するあまり、相手の意見に耳を傾けられないことにあります。この状況を打開するためには、沈黙の瞬間をうまく利用する必要があります。
沈黙をネガティブに感じる人もいるかもしれません。でも、沈黙があれば、言われたことを頭の中で消化できるし、ゆっくりと頭の中で整理してから話すことができます。
ですから、今後の会話では、沈黙の練習をするチャンスを見つけてください。言われたことを吸収する時間を取り、話す前にはじっくり考えてから話します。沈黙の瞬間を恐れるのではなく、その重要性を理解し、うまく利用してください。これで、より良い会話を組み立てられるようになるでしょう。
相手の視点を知る
イギリスの大手ホテルチェーンでインターンをしてきたばかりのアメリカ人大学生に、いちばん大変だったことを聞きました。
彼は、イギリスの職場がものすごく多様性に富んでいたことに驚いたと答えました。まるで全員が別の国から来たかのように、それぞれに訛りのある英語を話していたそうです。
そして、何よりもたいへんだったのがコミュニケーション。同僚に自分のことをわかってもらうのにいちばん苦労したとのことでした。そのためにはまず、相手の出身地、英語のレベル、担当している仕事などを知る必要があります。多くの場合、それは一人ひとり異なっていたそうです。
質の高いコミュニケーションとは、まさにこのことを指します。
自分の言うことを聞いてもらいたかったり、相手の言うことを聞きたいと思ったら、誰の考え方も、フィルター、信念、思い込み、経験、文化などによる影響を受けていることを理解しなければなりません。でも、これらが見た目では一切わからないから難しいのです。
要するに、あなたが何かを発言しても、必ずしも誰かに聞かれているわけではありません。優れたコミュニケーションができる人は、相手の出身地、文化、仕事、個人的要素などの影響を、時間をかけて把握します。それらの違いがわかれば、自分の意見を聞いてもらえるような方法でコミュニケーションをとることができるのです。
生まれつきコミュニケーションが上手な人もいるかもしれません。でも(おっと、それに)、あとからコミュニケーション力をつけることだって可能です。上記5つのうち、どれか1つでもいいので、すぐに試してみてください。自分のコミュニケーションが効果的になるのがわかると思います。同僚がそれに気づき、あなた自身も新たな自信が得られ、自分の仕事に対する満足度が高まるはずです。
5 Habits of Truly Amazing Communicators|The Muse
Lea McLeod, M.A.(原文/訳:堀込泰三)
Image by Colin Dunn (Flickr).