重要な話し合いの場面では、微妙なニュアンスや、些細な言葉遣い、慎重に折衝を重ねることなどが必要です。しかし、ほとんどの場合、一番大切なことは「はっきりと明確に言うこと」です。

会社役員のカウンセラーを長年努め、意志決定のプロセスを左右する4つの要素について記した本『Heart, Smarts, Guts, and Luck』の著者でもあるTsun-yan Hsiehさんは、国際的企業のCEOや会社役員たちに、彼らが出席する会議は当初の目的をきちんと果たしているかを調査しました。その結果、きちんと目的を果たしていたのはわずか全体の40%だったのだというのです。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか? 答えは、人間は難しい問題や意見の対立を引き起こしそうな話題については、避けようとする傾向があるということが関連しているように思われます。残念ながら、そういう時こそはっきりと言うことが最も必要です。

会議や話し合いの場面こそ、率直に言うことが必要だということに気付くことが、コミュニケーションがよりうまくいくようになるスタート地点です。そして、最も大切なのは、互いを尊重し合うという姿勢です。今回は、<自分の意見をはっきりと言うこと>の大切さについて考えていきましょう。■会議の目的は明確に

会議に臨む時に、理由や目的を明確にしていますか? 私はこの教訓に初めて直面した日のことを今でもはっきりと覚えています。私がインターネット関係のサービス会社を経営しているときに、数年前にIBMから移ってきた役員と対話をする機会がありました。

最初の挨拶を交わしただけで、2分も経たないうちに、彼は「この会議ではどのようなことを目的とされていて、時間はどれくらいありますか?」と聞いてきました。私は自分の目的が明確ではなかったので、思わず後ずさりしそうになりました。それからは、「なぜ」会議をするのかということ以上に、「どのように」会議を進めるかということについて考えるようになりました。

会議の進め方について考えているときに気づいたのは、お互いに何ができるかを見つけるために相手のことを知る時間をかけたかっただけだったということです。具体的に言うと、グループ企業間で取引をする機会があるかを知りたいというのが、自分にとっての最終目標だということがはっきりしました。あの役員のシンプルな質問が、前向きに自分の意見を言うことの重要性を教えてくれました。

会議に参加するときには、まず「いま私たちは何を決めた方がいいでしょう?」など、具体的な質問を投げかけてみましょう。ほとんどの会議で話し合われていることは、「収益を増やすこと」「情報共有」「承認要求」の3つのうちのいずれかです。自分が会議に呼ばれた時は、必ずどの目的の会議なのかを明確にしましょう。

■悪いニュースは挟まない

先ほどの会議の分類における「情報共有」をするときには、いいニュースと悪いニュースを混在させてはいけません。なぜなら、伝えたいことが伝わりにくくなることがよくあるからです(いいニュースの後で悪いニュースを持ってきて、最後にまたいいニュースで締めるというようなフィードバックの手法は古典的なもので、「サンドウィッチ」とも呼ばれています)。

美味しいパン(いいニュース)で挟んでも、中身(悪いニュース)がマズければ、サンドウィッチは美味しくありません。相手を気遣って、失礼にならないように思いやりながらフィードバックをするのはいいことです。しかし、ダメなところに関してははっきりと直接的に伝えなければなりません。これがフィードバックの一番大事なところでもあるのですが、曖昧にされることが多いです。

■気にせず素直に頼む

ベンチャーキャピタリストの同僚も私も、他人からの報告には慣れています。しかし同時に驚かされるのが、「何が言いたいのか分からない」もしくは「難しい質問に対してオブラートに包んだような言い訳をすること」が非常に多いことです。例えば、ある起業家が「私たちの事業計画にご意見をいただけるとうれしいです」と言うとき、実際に伝えたいのは「私たちの事業計画にお金を出してくれたらうれしいです」であることがほとんどです。誰かに何かを頼む時は、誰にでも分かるように明確で透明性を持たせることが一番です。「私たちの計画に投資しようかと思ってくださればうれしいですが、そうでなくても、ご意見だけでもいただければ幸いです」と言った方が分かりやすくていいでしょう。つまり、「頼みごとがある時は、ただ頼めばいい」ということです。

衝突することを避けようとしたり、はっきりと意見を言わないようにすると、大体の場合、痛い目に遭うか時間の無駄になります。

はっきりと言わなかったら、どんなことが起こるか考えてみましょう。

会議が終わって、参加者は何となくいい会議だったと思うかもしれないけれど、実際には何も起こらない

もしくは、

この会議の目的と次のステップは何だったのか、参加者はあやふやな状態で帰る

という事態を招くはずです。どちらの結果も混乱を招いたり、後に受動攻撃性につながりやすいです。その後、メールや文章で何とか解決しようとする人がいますが、それは問題を悪化させるだけです。そのようなコミュニケーションは、悪循環を引き起こすことが多いです。

積極的にはっきりと自分の意見を言うことは、突き放したり攻撃したりすることではありません。どのような話し方をするか、そのような言葉を選ぶかということが、かなり重要になります。自分の意見や会議がどのように受け取られるかを考え過ぎるよりも、はっきりと明確にすることの方が、より尊敬されることになるでしょう。

気遣いのあるコミュニケーションは美徳ですが、はっきりしないコミュニケーションは、コミュニケーションですらありません。勇気をもってきっぱりと自分の意見を言いましょう。

Have the Courage to Be Direct | Harvard Business Review

Anthony K. Tjan(原文/訳:的野裕子)

Image by Mmaxer (Shutterstock).
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