愛知県大府市の認知症条例を記念するモニュメント前に立つ高井隆一さん。最高裁判決を受け、全国に先駆けて条例が制定された

愛知県大府市の認知症条例を記念するモニュメント前に立つ高井隆一さん。最高裁判決を受け、全国に先駆けて条例が制定された

JR共和駅の事故現場。良雄さんはホームからフェンスを開け、写真左の階段から迷い込み、線路上ではねられたという(愛知県大府市)

JR共和駅の事故現場。良雄さんはホームからフェンスを開け、写真左の階段から迷い込み、線路上ではねられたという(愛知県大府市)

 2007年12月に認知症の高齢男性が電車にはねられて亡くなり、遺族が鉄道会社から高額な損害賠償を請求された訴訟は、最高裁判決で遺族が逆転勝訴した。家族だけが責任を抱えなくてもいいとの初の司法判断で、地域で自分らしく暮らし続けたい認知症の人を勇気づけた。判決から3月で5年、その意義と課題を探った。

■「はねられたらしい、急いで帰ってきて」

 日が落ち、辺りは暗くなり始めていた。2007年12月7日午後5時ごろ、愛知県大府市。高井隆一さん(70)の父良雄さん=享年(91)=がデイサービスから帰宅して間もなく外へ出ていった。同居の母がうたた寝した、わずか6、7分の間だった。

 隆一さんは東京都内の勤務先で、大府市に住む妻からの電話を受けた。取り乱した様子が伝わってきた。「(良雄さんが)JRの駅構内で電車にはねられたらしい。急いで帰ってきて」

■一審名古屋地裁は、高額賠償を認める判決

 良雄さんは認知症があった。所持金はなかったが、最寄り駅の有人改札をすり抜けて電車に乗り、一つ先の共和駅のホームに降り、フェンスの扉を開けて線路に入った。トイレを探して迷い込んだとみられている。