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2015年7月27日以前の記事
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Googleが“韓国で唯一”投資 学習アプリ「QANDA」運営元Mathpressoの実力190億円を調達(1/2 ページ)

AIを活用した学習プラットフォームQANDAを運営し、Googleが韓国で唯一投資したソウル発のエドテックスタートアップMathpressoの共同創業者 兼 CEOのRay Lee氏に、今後の展望を聞いた。

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 テクノロジーを用いて教育を支援するEdTech(エドテック)。Education(教育)とTechnology(技術)の造語だ。

 今回は、Googleが韓国で唯一投資したソウル発のエドテックスタートアップMathpresso(マスプレッソ)社を取り上げる。同社はGoogleに加えByteDance、SoftBank Ventures Asia、Samsung Venture Investment、韓国の通信大手KTから総額約190億円を調達した。マスプレッソは、AIを活用した学習プラットフォームQANDA(クアンダ)を運営。2016年にローンチしたQANDAは、韓国だけでなく日本、ベトナム、インドネシア、タイなどアジアを中心に50カ国で展開し、累計で9800万人以上の登録ユーザーを擁する。今後は米国にも進出予定だ。

 学生たちは教師に質問をする際、分からない問題を教師に見せて、教師からその解き方と回答を得る。それでも生徒が理解できない場合、再度教師に聞く。この一連の行動をアプリ上で提供するのがQANDAだ。生徒は学習中に疑問が生じたとき、スマホにインストールされたQANDAを使い、疑問部分をスマホで写真を撮りアップロードする。それだけで、段階的な解き方と回答が、スマホに速やかに表示される仕組みだ。


QANDAは、韓国だけでなく日本、ベトナム、インドネシア、タイなどアジアを中心に50カ国で展開(Mathpresso提供)

 QANDAには毎日、世界中で約800万枚の質問写真が「QANDAプラットフォーム」にアップロードされている。韓国では、インスタグラムにアップロードされた写真の数よりもQANDAにアップロードされた質問写真のアップロード数のほうが多い時もあったという。

 韓国社員100人のうちエンジニアが30人で、AI活用にも強い。数学ドメイン特化の言語モデル「MathGPT」では数学能力を評価するベンチマークテストがあり、2024年1月時点ではあるものの、同社によれば「米Microsoft(マイクロソフト)のモデルを超える成績を収めた」という。

 2023年冬には、韓国本社側で対話形式の説明を提供するLLM(大規模言語モデル)ベースのチャットボットを導入。2024年からは米国で、AIを活用した大学受験準備のための学習教材ジェネレーター「Cramify」(LLM)も提供している。

 マスプレッソ共同創業者 兼 CEOのRay Lee(レイ・リー)氏に、今後の展望を聞いた。


Ray Lee(レイ・リー) マスプレッソ共同創業者 兼 CEO。漢陽大学で電気工学の学士号を取得。延世大学で工学管理の修士号を取得。大学在学中にMathpressoを設立

教育市場に必要な「プラットフォーム」

 レイ氏は2015年、高校時代の友人Jake Lee(ジェイク・リー)氏とソウルでマスプレッソを設立した。全ての人に平等な教育を提供することが同社のビジョンだ。世界でもまれに見る受験大国である韓国で「全ての学生が、より効果的で平等な学習環境で勉強できる未来を思い描いています」と話す。

 マスプレッソのマスの由来は、算数・数学の英語であるmathematics(マスマティクス)だ。QANDAの由来はQ&A(質問と回答)と、ユニークなネーミングになっている。

 QANDAは日本でも数十万人の学生たちに利用されているという。2024年5月に開催された教育展示会EDIXでは「東京大学文系数学の問題をQANDAアプリで解く」デモを学校や塾の教師に実施。大盛況だった。単に最終的な回答を示すだけではなく、AIが段階的に解き方を説明し、回答していく。解き方を理解できない場合は、その箇所のみ再び質問できるようにした。

 QANDAは受験をする年代、すなわちティーンエージャーのみを対象としたB2Cのビジネスモデルだ。十代に商品を販売しているファッションメーカー、飲料水メーカー、携帯電話会社、ハンバーガーチェーンなどにとって、うってつけのプラットフォームでもあり、広告主も多い。プレミアムサブスクリプションモデルでは、事前に登録している教師が問題を解説するサービスも提供している。

 韓国でのQANDAアプリは、日本のLINEに相当する知名度とダウンロード数があるという。肝となるのは、このB2Cのビジネスモデルで10年以上にわたって培われたデータセットだ。71億以上のデータセットを所有し、9800万人から今までに寄せられた質問情報を有する。そこからAIが学び、正確な回答を出せるのだ。


Ray Lee氏(左)とJake Lee氏(Mathpresso提供)

全教科に拡大 B2B事業も強化

 QANDAは数学に特化してスタートし、現在は全教科のQ&Aに拡大している。この「QANDA App」がマスプレッソの一つ目のビジネスモデルだ。プレミアムメンバーシップでは、AI検索を無制限で提供。さらに強化されたAI検索性能、広告なしでのソリューション検索を月額約1400円で提供している。

 2つ目のビジネスは、1つ目のビジネスモデルで得た情報・経験・データセットをもとにして展開しているB2B事業「QANDA Tutor」だ。QANDA Appは、学生が自分たちで勉強をする際のスタディーツールで、基本的にAIが教師になる。

 一方QANDA Tutorは、タブレット内にデジタルコンテンツがあり、生徒はタブレットを利用して勉強する。AIを駆使し、間違ってしまった問題に似た問題を自動的に表示させるといった機能も含まれているという。高校生向けには月額約3万円で週2回の授業を提供。中学生向けには同じく週2回の授業を、約2万6000円で提供する。

 教師は、生徒がタブレットで勉強したあらゆる情報をダッシュボード上から確認できるという。今後、生徒が自習をする際に、QANDA Appを使用し、さらに深い理解を得たい場合は、オンラインでマンツーマンの家庭教師とつながったり、塾に通っているほかの生徒や教師とも交流したりできるよう、現在は製品を統合中だ。

 今後はQANDAオンライン家庭教師やTutorサービスによって、海外展開を目指す。ベトナムでは、韓国のQANDAオンライン家庭教師やTutorサービスとはまた異なる形態で「Live Class」というサービスを提供している。QANDAには2500人のオンライン家庭教師が在籍。その他Q&A対応の教師として約2万人が稼働している。


QANDA App

AI時代の教師の役割は?

 起業のきっかけは、レイ氏が大学生時代、家庭教師のアルバイトをしていたことだ。当時、韓国のSNSカカオトークを使って、生徒に返答していたという。生徒からの質問を写真で受信し、その回答と解析方法を何回も繰り返して回答をしていた。その後レイ氏は、AIによってこのプロセスをプラットフォーム化しようと考えたそうだ。これが、マスプレッソ社の起業につながった。

 現在、全体の売り上げのうち、60%が韓国で、40%がグローバル市場からだ。「第1のビジネスモデル(QANDA App)は薄利多売です。今後は第2のビジネスモデル(QANDA Tutor)を積極的に伸ばしていきたいと考えています。やがてはQANDA AppとQANDA Tutorを一つのプラットフォームにする計画です」

 教師とAIの関係はどうなるかを聞くと、教師の役割は「生徒のモチベーションを上げること」だと話す。

 「ティーチング・パートは教師よりもAIの方が上手だと思います。では教師、つまり人間がやるべきことは(生徒の)マネジメントではないでしょうか」

 ティーチングの定義は、パーソナライゼーションだ。その生徒が間違えた問題を分析し、その理解を深めるために次の問題をAIが選択し、即座に表示させる。生徒に合った正しいコンテンツ(問題)を表示するのだ。各生徒のステータス状況、どの問題で間違えてしまい、それに近い問題をどのくらい解いたのかなど、全ての情報はデータ化されている。

 レイ氏の言うマネジメントの定義は「なぜ勉強する必要があるのか」「この勉強をすることによって将来どのように役立つのか」を理解させることである。つまり勉強に対するモチベーションを上げることこそが、AIにはできない教師の役割なのだ。


Mathpressoのオフィス(同社提供)

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