長野県坂城町の住宅できょうだいが殺害された銃撃事件から5月26日で5年です。父親がNBSの取材に応じ、癒えぬ悲しみを語りました。父親は事件の後、犯罪被害者支援の拡充を訴え続けていて、「まだまだ整備が必要」だとしています。
市川武範さん(5月20日):
「自分自身、この家を空き家にするまで、このカーテン、窓を忘れたくないというような思いもあったりします」
破れたままのカーテンを見つめながら話す市川武範さん(60)。5年前、この窓から侵入した男によって、2人の子どもの命が奪われました。
2020年5月26日夜に起きた事件。坂城町の自宅に暴力団幹部の男(当時35)が侵入し、市川さんの長女の杏菜さん(当時22)と、次男の直人さん(当時16)を拳銃で殺害。男はその場で自殺しました。
警察は事件の2日前、市川さんの長男を暴行した疑いで男の逮捕状を取っていて、長男に対しては避難措置をとっていましたが、家族への犯行は防げませんでした。
市川武範さん(5月20日):
「きのう(19日)、直人の21歳の誕生日だったんですよ。『どんな21歳になっていたのかな』そういう思いに明け暮れた、きのう一日でした。杏菜は誕生日を迎えればもう28歳になる、そんな歳なんですよね。もしかしたら家庭を持って子育てをしていたかもしれない。だけれどもたくさんの孫に囲まれてなんていう生活は望めない、私と妻の未来になってしまったなと」
突然、子どもの命を奪われた悲しみ。そこに追い打ちをかけたのが「長男は暴力団と関わりがあった」「逃がせなかった父親が悪い」などといった「デマ」や「誹謗中傷」です。
自宅には住めなくなり、仕事も失いました。
市川武範さん:
「2人の子を亡くしただけでもつらい遺族に、さらに追い打ちをかける二次被害。そういうことが続いた苦しい5年間だったなと」
同じ苦しみを味わう人が減ってほしいー。
事件後、市川さんは「犯罪被害者支援」の必要性を訴え続けてきました。
県は2022年に遺族や被害者への見舞金の支給を盛り込んだ「犯罪被害者等支援条例」を制定。
2023年、中野市で起きた4人殺害事件も背景に市町村の「支援条例」の制定の動きは加速し、現在、77市町村中73市町村が条例を設けています。残る4町村も今年度中に制定される見通しです。
市川武範さん:
「安定して生活できる経済環境に置かれることが、犯罪によって傷ついた心の回復には絶対、必要だと思うので、大幅な被害者の援助ができる条例に。条例を制定したおかげで(支援が)できるようになったのは大きな進歩だと思う」
支援を考える輪は行政以外でも少しずつ広がっています。
こちらは千曲市の市民有志が去年立ち上げた「ともに会」。犯罪被害者支援について理解を広めていこうと、月に1回集まり、全国の取り組みの現状などを学んでいます。5月17日の活動には、市川さんも参加しました。
「ともに会」メンバー:
「問題なのは、犯罪被害を受けた人が、窓口ができたからといってそこに相談にいけるかどうか」
市川武範さん:
「当事者が動かなければ、何もしてくれないという状態が残っているんだと、今は感じています」
会の立ち上げから1年。メンバーを増やそうと活動を紹介しても、「重たくて関わりたくない」と言われるなど、「壁」の高さを感じていますが、それでも活動を続けることが大事だと感じています。
ともに会・山崎一男代表:
「日常生活をしていると、犯罪被害に遭われた方たち、被害者になった方の心情だとか、生活の状況だとか、困窮についてはなかなか分からない。積極的に被害者の視点で、世の中に毎日起きている事件を見ていくことはとても大事」
市川武範さん:
「知ってもらうことが重要だし、現実をお話しする中で当事者の声が強く必要だと思っていただければ、協力させていただきたい」
事件から5年。市川さんは、犯罪被害者支援の拡充に向け、今後も当事者としての経験や思いを伝えていきたいとしています。
市川武範さん:
「まだまだ気づいてもらえない部分とか、何とかならないかと思う部分があるのは事実。何をお願いしたらいいかも分からないほど混乱しているし、自分自身を見失ってしまってる状態が長い期間続くのが凶悪犯罪の被害にあった遺族なので、そこをご理解いただいて、想像力をフルに働かせて支援内容をつくっていただく必要があると思います」
犯罪被害者支援を巡っては、国が2024年6月、被害者や遺族に支払われる「犯罪被害者給付金」を増額しました。事件直後から弁護士が一貫してサポートする制度を盛り込んだ「改正総合法律支援法」も2026年度までに施行される見通しです。