地表以外での生活を模索

約3億7000万年前、ホモ・サピエンスのはるかはるかの(そしてさらにはるかの)祖先である脊椎動物であり、四肢動物と呼ばれる奇妙な姿をしたサンショウウオが、海を離れて陸地へと進出した。その後の地質時代においても、人類(あるいは後に人類となるもの)は海に戻ることなく、地上で生き続けた。

しかし、20世紀の先端技術の発展により、人類は地上以外の居住形態にも目を向けている。鉄鋼の登場により、かつてのSFドラマに出てきたような高層ビルが雲の上へと高くそびえ立ち、宇宙飛行士は1年間の宇宙滞在に耐えられることを証明し、NASAは2030年代までに月面に居住地を建設したいと考えている。

近年では、人類はかつての海底生活への回帰を模索しており、現在、英国のスタートアップ企業DEEPは、2027年までに海底に恒久的な人類居住地を建設することを目指している。

「私たちが目指しているのは、スペースXが宇宙を再び魅力的なものにしたのと同じインパクトを与えることです」と、DEEPのショーン・ウォルパート社長はユーロニュースに語った。「私たちはスペースXの経験を再現し、海に出て変化をもたらし、革新を起こしたいと願う優秀な人材を引き付けるためのプラットフォームと能力を提供することを目指しています」

すでに「居住施設」も完成間近

ウォルパート社長のアイデアには一理ある。人類が他の惑星に人類の旗印を掲げようと躍起になっている一方で、地球の海の大部分は未だ研究も探査もされていない。同社のロードマップは、同社が建設を目指す高技術な居住施設と同じくらい野心的だ。ワイヤーアーク積層造形(基本的には金属ワイヤーで3Dプリントされた居住施設で、海水圧の上昇にも耐えられる)と呼ばれる技術を用いて、同社は2025年末までに初の海中居住施設「ヴァンガード」を完成させたいと考えている。

deep社の海底居住施設「ヴァンガード」
DEEP
「ヴァンガード」は、おもに訓練、偵察、回収などの短期任務向けに設計された小型の輸送可能な居住施設だ。

わずか300平方フィート(約28平方メートル)のこの「ヴァンガード」は、「サンライトゾーン」内の水深約325フィート(約100メートル)で行われる短期ミッションで、3人のプロダイバーをサポートする。それに続く「センチネル」と呼ばれる6人乗りユニットは、6つの寝室、キッチン、科学実験室、水洗トイレを備え、最大水深656フィート(約190メートル)までの28日間のミッションに対応する。ここはまさに「トワイライトゾーン」の境界付近だ。

1950年代から1960年代にかけて、「シーラボ」や「コンシェルフ」と呼ばれた野心的なプロジェクトが、人類の原点である海への回帰という構想を探求してきた。だが、人類が“科学技術でアトランティス大陸を建設する”という構想を持ったのはここ数十年、少数の研究施設に限定されてきた。1960年代の「シーラボ」の最長のミッション期間はおよそ28日間だったが、その28日間は人類が海中で生活できる限界というわけではない。

2023年、「深海博士」として知られるサウスフロリダ大学のジョセフ・ディトゥリ准教授は、フロリダ州キーラーゴ島沖に作られた水中ホテルのジュールズ・アンダーシー・ロッジに100日間滞在し、最長の水中生活というギネス世界記録を樹立した。長期間の水中滞在中、ディトゥリ氏の心身の健康状態は綿密にモニタリングされ、浮上後、レム睡眠の増加、コレステロール値の減少、一時的な極度の近視、そして身長が約1.3cm縮んだことが報告された。

deep社「センチネル」内部
DEEP
「センチネル」の居住空間は、長期間の海中生活環境をサポートするのに十分な快適さを備えていると予想されている。

「海底生活」の希望と懸念

だが、人間が宇宙ステーションや他の惑星の地表で長期間キャンプ生活を送るのと同様に、深海での長期生活には技術的な課題がいくつか存在する。

人間が海中にいる場合,呼吸する空気あるいは混合気の圧力はその水深に相当する圧力に等しいので、人体中にガスが溶けこむ。一方、水面に戻る際には、圧力が減少するため人体中に溶けているガスは体外に排出されるが、減圧を急速に行うと窒素は気泡となり体に多くの障害を与え、場合によっては減圧症や死に至るなど、危険なプロセスとなる可能性がある。

さらに、水中生活者は陸上生活者よりも密度の高い空気を呼吸していることが判明しており、科学者たちは人間がそのような環境で循環器系に損傷を与えることなく無期限に生存できるかどうか確信が持てていない。

そして3億7000万年にわたって、人類へと至る過程において、私たちは太陽光をかなり強く欲するようになった。ディトゥリ氏は100日間にわたる水中冒険を生き延びたが、太陽光を恋しく思うあまり、家族に太陽の写真を送るよう頼むほどだった。

実際、ディトゥリ氏はナショナル・パブリック・ラジオ(NPR/米国公共ラジオ放送)に、「私は太陽の生き物です」と語っている

将来、海に人間が定住する上でもう一つの大きな懸念は、すでにそこにすんでいる水生動物たちの存在だ。人類はこれまで、これらの野生動物やその生息地の保全に多大な貢献をしてきた。とはいえ、たとえ太陽光が届く海域に生息する海洋生物の90%を研究するという高邁な目標を掲げていたとしても、巨大な金属片を住居として海に投げ込むことは、温暖化が進む地球で生き残るために苦しんでいる動物たちの生息環境をさらに破壊してしまう可能性がある。

こうした生物学的または生態学的不確実性(その一部は将来の研究によって克服または改善される可能性はあるが)にもかかわらず、DEEPは短期的および長期的な夢の両方を実現すべく邁進している。同社は2035年までに世界中で10件のマルチスパン開発を実現し、2050年までに初の水中出産を実現したいと考えている。これは、人類が自身の起源である海へと回帰する紛れもない象徴となるだろう。

「海への理解を深めないという選択肢はありません」とDEEPのウォルパート社長はオーシャノグラフィック誌に語った。「私たちはすでに、国際的なパートナー候補や、長期的な視野で地球のニーズを考えている人々と協議を進めています。彼らは、海洋を保全し、管理することで人類が得るメリットが今や無視できないほど大きいことを認識しています」

Source / POPULAR MECHANICS
Translation & Edit / Kazuyuki Okumura(Esquire)
※この翻訳は抄訳となる。