ウーリーマンモス復活はSFではない?

シベリアの大草原にウーリーマンモス(「ケナガマンモス」とも呼ばれる哺乳綱長鼻目ゾウ科マンモス属の一種)の足音が響いていたのは1万年もの大昔だが、科学者たちがその復活を目指しはじめたのは、最近になってからのことだ。ウーリーマンモスを生き返らせることは、果たして可能なのだろうか?

マンモスは現在その堂々たる骨格標本が博物館に展示されてるだけで、生きた状態では存在していない。しかし、米国のバイオサイエンス企業コロッサル(Colossal)による「脱絶滅」技術が成功すれば、エジプト新王国時代(紀元前1070年頃に終わりを迎えたエジプト史の時代区分)以降、はじめてマンモス(あるいはそれに類する生物)がこの地上に現れることになる。コロッサルはすでに、遺伝子のゲノム編集技術を駆使してウーリーマンモスを彷彿とさせる「ウーリーマウス」を生み出している。

ウーリーマウスとは?

ウーリーマウスは「巨大」ではないし「牙」も持たないが、極寒の気候のなかを生き延びたマンモスに備わっていた毛足の長い被毛と、厚い脂肪を蓄えたマウスだ。その姿は予想外に愛らしい。

最終的にはマンモスの近縁種であるアジアゾウの遺伝子を操作し、マンモスに限りなく近い動物を生み出すというのがコロッサルの立てた目標だ。

マンモスのDNAをマウスに応用

マウスはどうやってマンモスに生まれ変わったのだろうか?

まず行われたのは、現代のゾウのゲノムと、3500~120万年前に生息していた59頭のマンモスのゲノムの解析だ。絶滅種のゲノムの復元は、映画『ジュラシック・パーク』から想像するほど簡単な話ではない。DNAの遺伝物質は長い年月を経るなかで劣化し、断片化されてしまう。しかし、寒冷地域に生息していたマンモスの場合にはDNAが良い状態のまま保存されていることが多いという利点がある。

ウーリーマウスを生んだ研究チームを率いたのは、コロッサルの主任科学者であるベス・シャピロ博士だ。彼女はこれまで絶滅危惧種の救済や絶滅種の復活に関する研究論文を執筆してきた。

博士は英国生態学会から出版した研究論文のなかで、「絶滅種のゲノム解析ができたら、次なるステップは、そのゲノム配列の中から目的と合致する表現型に関わる部分を特定することだ」と述べている。「現存するゲノムの中で(マンモスの)絶滅に関わる部分を全て変更することが、論理的なゴールということになるかもしれない」

マウスのゲノムを編集してマンモスに似た生物を作り出すことは、もちろん不可能だ。遺伝学的にみて、マウスとゾウでは離れすぎているからだ。ただし、マンモスの寒冷適応特性がどの遺伝子によるものなのかを特定したうえで、マウスのゲノムのうち7種の遺伝子に絞り8つの編集を加えるというようなことは現実的に可能だ。

例えば、毛の成長にかかわる遺伝子のうちいくつかの働きを抑えることでマウスの被毛が変化し、波打つウールのような質感になり、従来の3倍ほどの長さにまで成長した。毛包(毛を産生する哺乳類の皮膚付属器官)の発達と成長に変化が生じた結果だ。

ウーリーマウスの被毛は、ミイラ化したウーリーマンモスの毛を彷彿とさせる明るい色調をしている。この色は、メラニンの生成を制御する遺伝子を操作することで実現した。メラニンとは人間などの生物の皮膚や毛髪の色の濃さに影響する暗褐色の色素だ。その生成量によって肌や毛の色調が変化する。

マウスに加えられたもう一つの変化は、脂質代謝(脂肪を分解してエネルギーに変換したり、合成して貯蔵したりする代謝プロセス)と脂肪酸吸収(分解された脂肪酸が小腸上皮細胞から吸収され全身に運ばれるプロセス)を制御する遺伝子に対するものだ。遺伝子の編集により、これらのプロセスに必要な時間が短縮された。マンモスにも同様の特性が備わっており、そのため厳しい冬の寒さから身を守るための脂肪をじゅうぶんに蓄えることができたのだ。

この先、マウスの被毛がどのように変化し続け、厳しい寒冷地で生き延びることが可能になるかどうかを見極めたいと研究チームは考えている。同時に、これらの遺伝子操作によって生じる健康上の問題の有無についても追跡する必要がある。

マンモス復活がもたらす未来とは

現時点では、ウーリーマウスは単に寒冷地に適応できるマウスに過ぎないかもしれない。しかし、アジアゾウの遺伝子を操作して太古のマンモスに近づけることができれば、失われた生態系を取り戻すための入口が開けるかもしれない。シャピロ博士とそのチームが目指しているのは、このような研究を通じて生態系を復活させることによるメリットだ。

Source / Popular Mechanics
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳である。