この記事のポイント
- 無謀とも思えた実験的対処が、40年以上を経たいま大きな利益をもたらしている。
- 1980年のセントヘレンズ山の大噴火により周辺地域は壊滅的な打撃を受けた。その後、山の生態系を支える微生物や菌類の環境を守るために、数匹の「ホリネズミ」が噴火跡地に放たれた。
- その結果として、菌類、特に菌根類が繁殖し、微生物群集が形成され、植物にとって好ましい環境が生まれた。
噴火後の跡地にネズミが放たれた
1980年に起きた米ワシントン州スカマニア郡にあるセントへレンズ山の大噴火。その噴火後に、科学者たちによって数匹のホリネズミ(北中米に生息する、地下に広大なトンネルを掘ることで知られているリス科の動物)が放たれていたというのだ。そう聞けば誰もが驚くはずだが、そこには確固たる理由があった。
カリフォルニア大学の発表によれば、このとき火山に放たれたホリネズミによって、噴火から40年以上を経た今、その大きな効果が生まれていたことが確認された。
物語は1980年5月に起きたセントへレンズ山の大噴火で幕を開ける。
米国史上最大の被害をもたらしたとも言われる火山災害によって57人の生命が奪われ、生態系に甚大な被害が及んだ。環境の復元には相当な時間がかかることが予想され、回復に向けたさまざまなアイデアが科学的に検討された。
採用されたアイデアの中には、「数匹のホリネズミを噴火跡地に放す」という、やや奇抜なものも含まれていた。当然のことながら、これも大真面目な措置である。
なぜホリネズミ?
カリフォルニア大学の報告書にその具体的な目的が記されている。「有益なバクテリアや菌類がホリネズミによって掘り起こされることで、失われた動植物に再生が促される可能性がある」というものだ。そして、壊滅的な噴火から2年後、研究チームよって数匹のホリネズミが噴火跡地に放たれたのである。
「害獣とされることの多いホリネズミですが、そのホリネズミによって本来の土壌が掘り起こされ、そして地表に運び出されることで、環境を回復することができるのではないかと考えました」」と、カリフォルニア大学リバーサイド校の微生物学者マイケル・アレン教授は言う。
ホリネズミを1日だけ放したら、6年後には「4万本」の植物が生い茂る
セントへレンズ山にホリネズミを投下する以前、噴火によって生まれた軽石の地表には、わずかに数十本の木々しか残っていなっという。しかし、その軽石の台地の2カ所に1日だけホリネズミを放したところ、6年後にはなんと「4万本の植物が生い茂った」のである。ちなみに、ホリネズミを放さなかったエリアは変わらず不毛なままであった。
6年経って明らかになった環境の変化は、それだけで十分に印象的だ。しかし、このたった1日限りのホリネズミの介入によってもたらされた恩恵が、その後、数十年を経てさらに大きな影響となって現れるとは、いったい誰が予想できただろうか。
米国の科学ジャーナル『フロンティア(Frontiers)』に掲載された論文に、その詳細が記されている。大噴火から40年以上が経った今日、かつてホリネズミが耕した土壌には豊かな微生物群、特に菌根菌(菌根を作って植物と共生する菌類)の一帯が生まれ、植物の繁茂を支えていることが確認されたのだ。
「木々によって、それぞれ異なる菌根菌が存在します。落ちた針葉の栄養がそれら菌類の繁殖を促し、そのことで木々の急速な再成長が起きたのです」と、論文共著者のエマ・アロンドン博士は菌根菌の果たした重大な役割について述べている。「木々の復活は、驚くほどの速さで起きました。懸念されたように、土地が枯れ果てしまうことはなかったのです」
コネチカット大学の菌類学者ミア・モルツ博士も言うように、「特に微生物や菌類といった目に見えない生物を含む自然界のあらゆる生命の相互依存性を無視することはできない」のである。
微生物や菌類もいいが、厳しい環境に直面したときには、数匹のホリネズミの力を借りてみるのも良いかもしれないということだ。それでまたうまく行くこともあるかもしれない。
Source / Popular Mechanics
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳である。