工芸品を扱う生活雑貨店を展開する中川政七商店(奈良市)などが3月、工芸に特化した独自の建築材料を開発・販売する会社を立ち上げた。伝統工芸は生活様式の変化による需要減少や後継者不足で衰退が進む。織物の壁紙や漆塗りの柱といった独自商品の開発事業や、販路開拓が難しい工芸品メーカーを支援する卸売事業に取り組み、需要の創出につなげる。(共同通信=我妻美侑)
会社の名称は英語で触覚と素材を表すTactile Material(タクタイルマテリアル)=大阪府和泉市。「工芸品は触れることで価値を感じられる」と考え、視覚で選ぶことが多い現代の家造りに取り入れてもらう。思いを共有する堀田カーペット(和泉市)と共同で設立した。
タクタイルマテリアルは会社の敷地内に、越前和紙の建具や美濃焼のタイルなどの魅力を体感できる一棟貸しの宿を開業した。伝統工芸を随所にちりばめながらも、現代の生活空間に溶け込むデザインに仕上げている。展示室も設け、建築関係者や家造りを考える人らを対象に幅広い活用を想定する。
中川政七商店の千石(せんごく)あや社長は報道関係者向けの内覧会で、畳や欄間を例に挙げ「家に使う工芸は生活雑貨商品に落とし込むだけではメーカーの商売を成り立たせることは難しいという課題があった」と話した。
今後、工芸を生かした家で使う材料を広く「工芸建材」と位置づけ、新分野として市場を開拓する。体験施設のホテルへの展開も視野に検討を進め、5年で10億円の売り上げを目指す。
中川政七商店は奈良晒(ならざらし)の卸問屋として1716年に創業。今年2月に会長を退任した13代目の中川淳(なかがわ・じゅん)さんが、日本の工芸を再興するために業界初の製造小売業態を確立し、メーカーの経営再生も支援してきた。千石さんは2018年に創業家以外から初めての社長に就任した。