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漫画家の地震予言、空前のインバウンド熱に冷や水-アジアから予約減

  • 4月以降アジアからの航空券予約減、香港からは7月にかけ83%減も
  • 訪日客は月400万人目前、関係当局は根拠ない噂と冷静な対応呼び掛け

夏の旅行シーズンを前に、アジアの主要市場から日本への旅行予約が落ち込んでいる。背景には日本のある漫画家の作品で言及された地震に関する予言が関係しているとみられ、空前のインバウンドブームに水を差す懸念も出ている。

  SNS上などで拡散されているのは、たつき諒氏の著書「私が見た未来 完全版」に描かれた巨大地震の予言だ。作品ではたつき氏が2025年7月に日本を巨大津波が襲う壊滅的な地震が発生する夢を見たとしており、最近になって注目を集めている。

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「私が見た未来 完全版」たつき諒著
Source: Bloomberg

  たつき氏は東日本大震災前の1999年に初版が発売された同書で「大災害は2011年3月」とのメッセージを記しており、信ぴょう性を巡る議論がネット上で広がっている。発行元の飛鳥新社のウェブサイトによると、21年に復刻された同書の発行部数は100万部を超えた。

  このようなうわさが旅行者の不安をあおり、インターネット上では関連動画の再生数が急増するなど話題となっている。フェイスブックなどのSNSでは、地震が来るかもしれないとして日本への旅行を見送ったり、キャンセルしたりするという趣旨の投稿が相次いでいる。

  専門家は、地震の発生時期を正確に予測することは不可能であり、今回のうわさには科学的根拠がないと指摘する。それでも、不安が現実の行動に影響を及ぼしているのは事実だ。

  ブルームバーグ・インテリジェンスが旅行データ会社フォワードキーズのデータをもとに分析したところ、4月以降、香港や台湾、韓国からの日本行き航空券の予約数が減少。特に香港からの予約は前年同時期比で平均50%減となっており、6月下旬から7月上旬にかけての週の予約では同83%と大幅な落ち込みとなっている。

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年始からの前年同期比での香港発航空券予約増減(棒グラフ)と「私が見た未来」への検索関心度
Source: Google Trends, ForwardKeys, Bloomberg Intelligence

  影響は航空業界にも及んでいる。香港を拠点とする格安航空会社(LCC)であるグレーターベイ航空香港航空は今月、香港から日本への一部フライトを減便した。24年に日本を訪れた観光客の出発地で香港と韓国、中国、台湾は上位5カ国・地域に入っており、これらの市場からの訪日客の減少は、観光関連産業に深刻な影響を及ぼしかねない。

  新型コロナウイルス禍で大幅に落ち込んだ日本の観光業は23年以降、円安とアジア・米国からの旺盛な旅行需要を追い風に急速に回復してきた。日本政府観光局(JNTO)によると、4月の訪日外客数は単月として過去最高の391万人だった。前年同月比29%の大幅増で初の400万人台が視野に入っている。

風水師

  ブルームバーグ・インテリジェンスの航空・防衛アナリストであるエリック・チュー氏は、「地震の臆測が日本の観光業に明らかに悪影響を与えており、観光ブームを一時的に鈍化させるだろう」と指摘。「アジアには短距離で行ける選択肢が豊富にあるため、旅行者はリスクを避ける傾向にある」と述べた。

  チュー氏は、現在の予約傾向と今後の搭乗率予測に基づき、今後数カ月でさらに多くの航空会社が逆風に直面するだろうと予想している。

  特にキャセイパシフィック航空は、傘下のLCCも含めて日本市場への依存度が高く、リスクが大きいとみられる。同グループはこの秋にかけて、全体の約2割の座席を日本路線に割り当てる予定で、日本は同社にとって最大の国際線市場になる見通しだという。

  「私が見た未来」では日本列島が津波に襲われ、香港、台湾、フィリピンにも被害が及ぶ様子が描かれており、香港の著名な風水師であるインフルエンサーもたつき氏と同様の警告を発している。多くのフォロワーを持つ彼女は、自身の予言に基づき「地震や自然災害の危険があるため日本への旅行は避けるべき」と呼び掛けている。

南海トラフ

  日本の関係当局は、こうしたうわさを打ち消そうと懸命だ。宮城県の村井嘉浩知事は4月23日の会見で、非科学的で根拠がない内容がSNSによって拡散されて「観光面で影響が出てくるというのはゆゆしき問題」と批判。「気になさらずぜひ多くの方に来ていただきたい」と呼び掛けた。

  また、気象庁の公式ウェブサイトでは、現在の科学的知見からは確度の高い地震の予測は難しく、「日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマと考えられる」と明記されている。しかし、日本が「環太平洋火山帯」に位置する世界有数の地震大国であることも事実だ。

  政府は昨年8月8日に発生した日向灘を震源とする地震を受けて次の巨大地震に注意を呼びかける「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)を発表。今年1月には今後30年以内に南海トラフ地震が起こる確率を約80%に従来の70-80%から引き上げた

  出版社を通じてブルームバーグの取材に書面で回答したたつき氏は、関心の高まりについて「防災意識が高まっている証拠」と捉えているという。「私自身も、25年7月に向けて、災害に備えた備蓄を行うことや、外出時の避難経路の確認など、日頃から十分な注意を心掛けて過ごしたい」と述べた。

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