外国からの介入、選挙や国民投票も標的の可能性…翻訳システムが洗練化し「言葉の壁」低く
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[SNSと選挙]政治の今<下>
5月18日にルーマニアで実施されたやり直しとなる大統領選挙の決選投票。この日午前、ブカレスト郊外の投票所に候補者が姿を現すと集まった有権者から大きな歓声が上がった。しかし、お目当ては候補者ではない。その隣に立つ人物、やり直し選挙への出馬が認められなかったカリン・ジョルジェスク氏だ。
「ジョルジェスク大統領!」
連呼が響き、辺りは熱狂に包まれた。
親ロシア派で極右のジョルジェスク氏は
だが、その後事態は一転する。情報当局などが機密文書を公開し、ジョルジェスク氏関連の偽アカウントが約2万5000件確認され、宣伝に関与したインフルエンサー100人以上に計約38万ドル(約5500万円)の報酬が支払われたと明らかにされた。そしてロシアの関与も指摘され、憲法裁判所は大統領選挙を無効にした。
外国勢力の大規模な選挙介入は日本では確認されていないものの、危機は確実に忍び寄っている。
「ネットを通じた日本への世論工作は過去にも行われている。ロシア系の通信社がインフルエンサーを操り、投稿をボット(自動プログラム)で拡散していた。これが現実だ」
元政府高官はこう証言する。詳細は語らなかったが、数年前に米国から「日本もロシアによる選挙介入の対象となっている」との情報が寄せられ調査したところ、ネット上で親露工作が見つかり、首相官邸に状況が報告されたという。
危険にさらされているのは選挙だけではない。英国では欧州連合(EU)離脱の是非を巡る2016年の国民投票で、ロシアやイランの介入が疑われた。日本では憲法改正の是非を問う国民投票がターゲットになる可能性がある。
北神圭朗衆院議員(無所属)は「国論の分断が一番の狙いであれば、憲法改正の国民投票は格好の標的だ。日本はこれまで『言葉の壁』に守られていたが、翻訳システムがこれだけ洗練されてきた今、危機感を持つべきだ」と訴える。
憲法改正は賛否両方の立場から自由
5月22日の衆院憲法審では、平和博・桜美林大学教授はファクトチェックは公的機関ではなく「民間主導で進めるべきだ」と述べ、マスメディアの積極的な関与にも期待を寄せた。
もっとも、ファクトチェック以外にも、選挙運動を名目にしたSNSの収益化対策、プラットフォーム事業者の責任強化など詰めるべき課題は多い。言論の健全性をどう守るか。国会は重い腰を上げたばかりだ。
(この連載は、政治部 重松浩一郎、三歩一真希、樋口貴仁、ローマ支局 倉茂由美子が担当しました)