「政府の取り組みに、大きな穴が開いている」
国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会は、8月4日に公表した声明で、ジャニーズ事務所を巡る性加害問題など日本の人権課題について、日本政府に改善を迫った。
ボールを投げられた政府。声明への見解を問われた松野博一官房長官は「法的拘束力を有するものではない」とかわした。
国連作業部会の指摘は、それほど取るに足らないものなのだろうか。私たちは声明をどう受け止めたらいいのだろうか。国連作業部会の調査に協力した弁護士らと声明の意義について考えた。(デジタル編集部・福岡範行)
◆政府へ「実効的な救済を確保すべき」
12日間の訪日調査をへて、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が4日に公表した暫定的な声明では、ジャニーズ問題だけにとどまらず、女性や性的少数者(LGBTQI+)、障害者、労働者など、幅広い分野で「明らかな課題」が残っていると注文を付けた。
日本政府に対しては、「あらゆる業界で、ビジネス関連の人権侵害の被害者に、透明な調査と実効的な救済を確保すべきだ」として、被害者救済や人権意識向上の要となる国家人権機関の設置を強く促した。ジャニーズ問題に関しても、主体的に被害者を救済するよう政府の積極的な関与を求めた。
国連作業部会が東京都内で会見を開いた3日後。松野官房長官は8月7日の記者会見で、声明について「作業部会の見解は、国連や国連人権理事会としての見解ではなく、わが国に対して法的拘束力を有するものではない」と発言。ジャニーズ問題への対応の質問が続くと、「一般論として、個別の事業者における事案は、当該事業者において適切に対応されるべきものと考えている」と語った。
外務省人権人道課の担当者は、松野官房長官の「法的拘束力を有しない」という発言について、「あくまで事実関係として述べただけで、見解を重視しないというわけではない」と解説する。声明については「出たことは承知しているし、しっかり読んでいます」とは述べたものの、政府として今後、どう対応するかは「まだ予断を持って答えられる状況にない」と繰り返した。
◆「法的拘束力がないとか言っている場合じゃない」
20年来、ビジネスを巡る人権問題に関わり、今回の国連作業部会の聞き取りにも一部、同席した斉藤誠弁護士(77)は、松野発言に「法的拘束力がないとか言っている場合じゃない」と反論。ジャニーズ問題に関する「事業者で対応すべきだ」との発言には、「全く勘違いしている。国の責任を放棄している」とまで言い切った。
国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長の小川隆太郎弁護士(38)は「現場に足を運んで、かなり包括的に日本の人権問題を調べてくれて、網羅的なレポートになった」と専門家たちの仕事ぶりを評価。声明の指摘を重視し、日本政府や企業に「真摯に受け止め、課題に直ちに取り組む必要がある」と求める文書も公表した。
日本政府にとって、国連人権理事会が任命した専門家から指摘を受けるのは、今回に限ったことではない。過去には、国連作業部会同様、国連人権理事会が任命した専門家による「特別報告者」からも何度か勧告を受け、そのたびに反発してきた。
今年6月に改正された入管難民法のときもそうだ。国会で審議中だった4月、改正案について、国連人権理事会の特別報告者らが「国際人権基準を満たしていない」として、...
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