lynx   »   [go: up one dir, main page]

日本最悪の赤字「三セク鉄道」が10年で激変 注目される京都丹後鉄道の経営とサービス

利用客を増やすため丹鉄ではさまざまな取り組みを進める。観光列車は人気コンテンツの一つだ(ウィラートレインズ提供)
利用客を増やすため丹鉄ではさまざまな取り組みを進める。観光列車は人気コンテンツの一つだ(ウィラートレインズ提供)

赤字ローカル線の維持が課題となる中、自治体が車両や線路などの設備を維持管理し、経営負担を減らす「上下分離方法」の導入が相次いでいる。10年前に全国のローカル線に先駆けて導入したのが、京都府北部を走る京都丹後鉄道(丹鉄)だ。豪雨被害や新型コロナウイルス禍に直面し、苦しい経営を迫られた時期もあったが、利用者や収入は回復の兆しを見せている。「地域にはまだ鉄道に対する潜在需要がある」と専門家。今、どのようなニーズと向き合うべきか。岐路に立つローカル線の真価が問われている。

上下分離から10年

「今後も安全運行に努め、地域に愛される鉄道を目指していく」

丹鉄の運行を担う「ウィラートレインズ」(京都府宮津市)の飯島徹社長は3月、次の10年に向けた記者会見で決意を語った。

会見で次の10年に向けて決意を語ったウィラートレインズの飯島徹社長、ウィラーの村瀬茂高社長、北近畿タンゴ鉄道の宮田英樹社長(当時、左から)=3月、京都府宮津市(ウィラートレインズ提供)
会見で次の10年に向けて決意を語ったウィラートレインズの飯島徹社長、ウィラーの村瀬茂高社長、北近畿タンゴ鉄道の宮田英樹社長(当時、左から)=3月、京都府宮津市(ウィラートレインズ提供)

丹鉄は第三セクター鉄道の中で日本一の赤字路線だった北近畿タンゴ鉄道が、上下分離方式を採用したことに伴って平成27年から運行開始。人口減により地方のローカル線が軒並み業績不振にあえぐ中、国内初の取り組みとして注目を集めた。

ウィラートレインズの担当者はこの10年について「観光施策や運行改善、サービス向上に注力できるようになった」と評価。「地域に密着した鉄道経営を実現できたことは大きな成果だ」と胸を張る。

多くが赤字のローカル線

国土交通省によると、現在、全国に98社あるローカル線事業者のうち、13事業者が全部または一部で上下分離方式を採用している。

このうち昨年4月に再スタートを切った近江鉄道(滋賀県彦根市)は、上下分離初年度となる令和7年3月期の鉄道事業の営業損益が5200万円の黒字となった。

沿線に専門職大学の新キャンパスができたことや、鉄道の保守管理業務を請け負ったことが主な要因で、黒字は実に31年ぶりだ。

ただ県内主要都市に乗り入れ、年間約480万人の利用者がある近江鉄道は例外的で、事業者の多くは利用者減により、慢性的な赤字を抱える。近江鉄道の担当者も「沿線人口の減少は避けられない。今後も利用者を増やす取り組みを進めていく」と危機感を隠さない。

サービス展開で収益改善

開業初年度となる27年度の利用者が186万人だった丹鉄は、平成30年の西日本豪雨で一部区間が不通となったことや、新型コロナ蔓延(まんえん)による影響で大きく利用者を減らした。

一方で、インバウンド(訪日客)を含めた観光客に利用してもらおうと、令和2年にVisa(ビザ)のタッチ決済サービスを全国の鉄道で初導入。人気漫画「進撃の巨人」とのコラボレーション列車の運行なども話題となった。

こうした取り組みが功を奏し、6年度は142万人まで利用者が回復。運輸収入は開業後最高額となる116億円9千万円に達した。丹鉄の担当者は「今後も経営の安定化に向けて着実に取り組んでいく」と話す。

社会インフラとしての鉄道

収支改善の一方で、社会インフラとしての鉄道の意義も問われている。

車のない地域住民にとって、鉄道は通学や通院に欠かせず、災害時には道路の代替交通にもなる。地域交通に詳しい関西大の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)は「目先の収支に追われるのではなく、鉄道が地域に与える好影響に目を向けるべきだ」と指摘する。

次の10年に向け、丹鉄は沿線の交通アクセスの充実を大きな柱に掲げる。具体的にはインバウンドを中心とした観光客の取り込みを軸に経営を安定化。JRやバスなどほかの交通機関との接続を考慮してダイヤを組むほか、公共ライドシェアなどを念頭に交通網を再構築し、利用者の利便性向上につなげたい考えだ。

「地域にはまだ鉄道に対する潜在需要がある」と宇都宮教授。今後の展望について「民間のアイディアを取り入れながら街づくりを進めることができればいい」と話した。

会員限定記事

会員サービス詳細
Лучший частный хостинг