米FBI長官、新政権発足で辞任へ トランプ氏が敵視
【ワシントン=芦塚智子】米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は11日、2025年1月のトランプ次期政権発足にあわせて辞任すると表明した。トランプ氏はレイ氏を解任する意向を示し、既に後任に「忠臣」のひとりで第1次政権で国防総省などの要職に起用したパテル氏を充てると発表している。
レイ氏は同日の職員向けの演説で「数週間にわたって熟慮し、私が1月の現政権の最後まで務めて辞任することが、FBIにとって正しいことだと決断した」と述べた。「これがFBIをさらに混乱に巻き込まないようにする最善の道だというのが私の考えだ」と説明した。「(辞任は)自分にとって容易ではない」とも語った。
トランプ氏はSNSでレイ氏の辞任表明について「不正の省として知られるようになった省(司法省)の武器化を終わらせる米国にとって素晴らしい日だ」と歓迎した。
トランプ氏はFBIが同氏による機密文書の不正持ち出し疑惑で22年8月に同氏の邸宅を捜索したことを巡り、「レイの指揮下でFBIは理由もなく私の家を違法に強制捜索した」と批判。「私を違法に弾劾したり、起訴したりするために執拗に取り組んだ」とも主張した。
パテル氏を「史上最もFBIを率いる資質がある」と称賛し「パテル氏が承認され、FBIを再び偉大にするプロセスを始めるのを楽しみにしている」と強調した。
レイ氏はトランプ氏が第1次政権で指名し、17年8月に就任した。10年の任期を約3年残して長官を退くことになる。
トランプ氏は前政権の当初はレイ氏を高く評価していた。レイ氏が20年大統領選での不正を否定した発言やロシア疑惑での対応などに不満を募らせ、特に邸宅への捜索を受けてレイ氏への攻撃を強めていた。
今年7月に起きたトランプ氏の銃撃事件で、レイ氏が負傷の原因は銃弾か確認できていないと発言したことについても、トランプ氏は反発していた。FBIはその後、銃弾だったと発表した。
FBI長官の任期は連邦法で最長10年と定められている。政治の影響を避けるため、大統領の任期である2期8年より長く設定したとされる。実際、大統領は前政権の長官を留任させることが多く、バイデン大統領もトランプ氏が指名したレイ氏を続投させた。
しかしトランプ氏は17年5月にレイ氏の前任だったコミー氏を解任した。クリントン元国務長官の私用メール問題で訴追を見送った判断や、16年大統領選でのトランプ陣営とロシアの不透明な関係を巡る疑惑を捜査していたことを問題視したとされる。
レイ氏も辞任に追い込んだことについて、民主党からは「FBIを政治的・個人的な目的のために武器化することの危険性を高める行為だ」(ブルメンソール上院議員)といった批判が出ている。
一方で共和党議員は「辞任は遅すぎた」(ホーリー上院議員)などトランプ氏の立場を支持する声が目立つ。
トランプ氏が後任に指名したパテル氏は、トランプ氏の捜査にあたったFBIなどを「ディープステート(闇の政府)」と批判する陰謀論を唱えてきた。
保守派メディアのインタビューで、首都ワシントンのFBI本部を取り壊して「ディープステート博物館」にするといった発言もしている。
第1次トランプ政権で国防総省の首席補佐官や国家安全保障会議(NSC)のテロ対策上級部長などを務めた。
2025年1月20日(現地時間)にドナルド・トランプ氏が再びアメリカ大統領に就任。政権の行方など最新ニュースや解説を掲載します。