1万6000年前から3000年前まで日本列島で縄文文化を支えた縄文人の遺伝子はいま,どこにあるだろう。縄文人集団と,大陸から渡来した東アジア人集団が混血して現在の日本人集団となった。縄文的特徴は薄くなったが,その遺伝子のかけらは今も日本人集団の中に存在している。縄文人のかけらを現代日本人のゲノムから抽出しようという研究が進んでいる。
東京大学大学院理学系研究科でヒトゲノム多様性をテーマに研究している渡部裕介と大橋順のグループは2023年,日本の現代人ゲノムから縄文人に由来するとみられる変異を特定し,それに基づいた「縄文人度合い」で日本本州の各地域の差異を見ることに成功した。
さらに,縄文人由来変異は今の日本人に具体的に表れている形質,つまり表現型を見る新しい視点にもつながる。日本人のゲノムを「縄文人由来」と「渡来人由来」に分類し,これまでのゲノムワイド関連解析でわかってきた60種類の量的形質に関する情報と重ね合わせて縄文人表現型・渡来人表現型を推定すると,「縄文人度合い」と現代日本人の体質との深い関係が見えてきた。
著者
内村直之(うちむら・なおゆき)
フリーランス科学ジャーナリスト。著書に『われら以外の人類』(朝日選書,2005年),『古都がはぐくむ現代数学』(日本評論社,2013年)など。
協力:大橋 順(おおはし・じゅん)/渡部裕介(わたなべ・ゆうすけ)/斎藤成也(さいとう・なるや)
大橋は東京大学教授。ヒトの進化遺伝学が専門で,ゲノム解析によるヒト集団の起源や自然選択の影響,感染症とヒトの遺伝的適応を研究している。渡部は東京大学特任助教。遺伝学の観点から,現代日本人の遺伝的な地域差や,日本列島人の集団史の推定を手掛けている。斎藤は国立遺伝学研究所特任教授。新学術領域研究「ゲノム配列を核としたヤポネシア人の起源と成立の解明」領域代表を務めた。