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- 2024年12月13日
働きたいけど働けない 精神障害者が直面する壁とは 広島では精神障害者を多数雇用する企業も…秘けつは?
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「世の中はやっぱり厳しいと思いました」
精神障害がある女性は、アルバイトの面接を受けましたが、障害を理由に採用されなかったといいます。
働く障害者が増え続けていますが、障害の区分によって雇用の格差が生まれているという現実も。
精神障害のある人の就労の課題と、それを乗り越えるための取り組みを取材しました。
“働きたいのに働けない”
前編の記事では、重度知的障害の女性が、障害がない人と遜色のない作業時間で仕事をすることを実現したシステムなどを取り上げました。
障害の区分によって雇用の格差が生まれているという現実もあります。
企業に対して行った調査では、障害者を雇用するにあたってノウハウがあるかどうか、障害別に聞いたところ「十分ある」「困らない程度にある」と答えた割合は、身体障害ではおよそ45%なのに対し、精神障害はおよそ23%にとどまっています。
都内に暮らす中村結菜さん(仮名)は、パニック発作などの症状がでる精神障害があります。
大学在学中に症状が悪化し中退。その後、就職できずにいました。
社会にでるきっかけをつかもうとアルバイトの面接を受けましたが、障害を理由に採用されなかったといいます。
中村結菜さん(仮名)
「お薬で症状は抑えられるので、アルバイトしたいと面接で言いました。“もし何かあったときに会社としては責任が取れない”と理由を言われて、採用されませんでした。世の中はやっぱり厳しいと思いました。自分は何の役にも立たないんだって」
その後、落ち込み自らを責める日々が続いた中村さん。
それでも働きたいと、今は就労支援の施設で訓練を続けています。
中村結菜さん(仮名)
「スタッフさんも職員さんも、人間性を見てくれたところが一番でした。この事業所にいる間に変えられるところはやっぱり自分で変革していきたいし、できれば世の中のプラスになることをしたいという願いは手放せません」
就労支援施設を運営するNPO法人T&E 山﨑浩司所長
「その方その方の特性はすごく広くありますし、そういったところを活かしていけるような社会になっていけば、困難を感じている方たちも生きていけるような社会になるんじゃないかと考えています」
精神障害者を多数雇用する企業 秘けつは?
働きたくても雇用につながらない状況をどう改善すればいいのか。
広島県にある企業では、精神障害の特性に配慮した職場作りを目指しています。
この職場で働く障害者のうち90%が精神障害のある人たちです。
そのうちのひとり、去年入社した田中彩乃さん(仮名)。
これまで仕事に定着することが難しかった中、今は安心して働けているといいます。
その理由は会社が導入した特別な業務日報の仕組みにあります。
通常は業務内容だけ記入するものですが、業務以外でも不安に思ったことや相談したいことを記入することができます。
さらに服薬の有無や就寝時間、体調の状態も報告することができます。
田中さんのこの日の体調は4段階で3。悪くはありませんが、昨日よりも1段階下がっていました。
田中彩乃さん(仮名)
「プライベートのことも書いたり、体調が崩れた日なら、なぜ体調が崩れたのか、しんどいことがあると書かせてもらったりとか。口では言いづらいことを知っていただけているという安心感があります」
この仕組みで、管理者も一見理解しづらい田中さんの心身の変化を、把握することができるようになりました。
田中さんの管理者 久保浩二さん
「精神障害のある方の体調の変化は、表面的にはわかりづらいことが多いです。記入しているコメントをみると『今日は調子が悪い日なんだ』ということがわかるようになりました」
さらにこの業務日報は、オンラインで心の専門家につながっています。
管理者と従業員のやりとりを臨床心理士などの専門家がチェック。両者にサポートやアドバイスを行います。
それを参考に管理者は、休憩を勧めるなどの対応を行えるのです。
久保さん
「一人ずつ障害の特性に違いがあり、我々は知識がないので、専門家の皆さんが助言してくれるところが、非常にいいですね」
このシステムを開発した会社では、精神障害のある人を雇うノウハウを多くの企業が持たない中、その状況を変えたいとしています。
サービス開発を手がけた大塚由紀子代表取締役
「精神障害の人たちは非常に困っていることがあるのですが、会社の人も困っているんですよね。どんなふうに対応したらいいのか、どんなふうに判断したらいいのかということを、誰にも相談できないというところを何とかしたいなと思っています」
精神障害のある人たちの雇用の課題にどう向き合えばいいのか、障害者雇用に詳しい眞保智子さんに聞きました。眞保さんは社会福祉法人を経営し、精神障害のある人たちも雇用しています。
法政大学教授 眞保智子さん
「精神障害と一言で言っても、診断名や特性が異なります。一律に語ることはできませんが、仕事の能力はあるのに体調が不安定なことから働きづらくなってしまうことが課題だと考えています。
広島県の企業のように、体調の変化やメンタルの不安定さの兆候にいち早く気づき、対応をするためのアプリやシステムを導入してみるのもよいと思います。
また、精神障害のある方が安定して働けて戦力となっている事例を各企業が広く発信していくことで、偏見が解消されたり、ノウハウが共有されたりするので重要だと考えています」
眞保さんは、障害がある人に配慮する職場は、誰にとっても働きやすい職場になると考えています。
眞保さん
「障害のある方への配慮で仕事の手順を見える化、マニュアル化することで、他の人との仕事の共有が容易になるといった効果があります。そのため、『課題の見える化』が重要です。
それができると、育児や介護、闘病中の方など、仕事との両立が難しい人たちに対しても配慮できるようになります。1人1人の状況に配慮することで、それぞれが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を作ることができます。
障害者雇用は、企業にとって、多様な背景の人が共に働ける組織作りを促す価値もあることを認識して取り組んでほしいと思います」