lynx   »   [go: up one dir, main page]

最新記事

インタビュー

【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(前編)

2016年8月6日(土)06時02分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

Harry S. Truman Library & Museum

<2016年5月27日にバラク・オバマ米大統領が広島を訪問するのに先立ち、本誌は原爆投下を決断した第33代大統領ハリー・トルーマンの孫、クリフトン・トルーマン・ダニエルを訪ねていた。2時間余りに及ぶインタビューの中で、ダニエルが率直に語った「祖父の決断」とその責任、そして、彼自身がヒロシマ・ナガサキの被爆者と交流を続ける理由とは> (写真:トルーマン元大統領と幼き日のダニエル、1959年)

 謝罪(apology)──バラク・オバマ米大統領の広島訪問を前に、日米両国でにわかにこの言葉への注目が高まっている。オバマは日本人に謝罪すべきなのか。日本国民は米大統領に謝罪を求めるのか。戦時中の行為をめぐる「謝罪」について、日本はこれまで他国から求められることはあっても、こと原爆に関してアメリカにそれを求める声は大きくなかった。

 では国家間の話ではなく、「当事者同士」という個人レベルの謝罪についてはどうなのか。日本には大勢の被爆者と、その血を受け継ぐ子孫たちがいる。一方、アメリカ側にも当事者はいる。その中心的な存在が原爆投下を決断し、指示した第33代大統領ハリー・トルーマンだ。

 トルーマンは72年に死去したが、その血を引く人物が近年、日本の被爆者と交流を続けている。クリフトン・トルーマン・ダニエル、58歳。彼の母親はトルーマン元大統領の一人娘で、ダニエル自身は娘と2人の息子の父親だ。

 戦後生まれのダニエル自身は、第二次大戦の「当事者」ではない。しかもアメリカでは今も原爆投下を正当化する声が根強い。にもかかわらず、彼はなぜ被爆者の体験をアメリカに伝える活動を続けているのか。祖父が下した決断と、どう向き合ってきたのか。それを知りたくて、今月14日、シカゴにあるダニエルの自宅を訪ねた。  閑静な住宅街にあるレンガ造りの一軒家。日本のように靴を脱いで上がったリビングで、元大統領の目鼻立ちをはっきりと受け継いだダニエルは2時間余り、片時も記者から視線をそらすことなくインタビューに答えてくれた。ダニエルの言葉を通して「謝罪」と「責任」の本質を探る――。

【参考記事】特別寄稿:TBSアナ久保田智子「私の広島、私達のヒロシマ」

――オバマ大統領の広島訪問の話をする前にまず、おじいさんについて聞かせてください。トルーマン元大統領はあなたにとってどんなおじいさんでしたか。

 私にとっては普通の「おじいちゃん」だった。ヒロシマとナガサキについて話すとき、「おじいさんから話を聞いたか」とよく質問されるが、答えはノーだ。祖父は私が15歳のときに亡くなった。私たち兄弟はまだ子供で、祖父に会うのはクリスマスや感謝祭、春休みなど学校の長期休暇中だった。せっかくの休みに、歴史の授業が展開されるような質問はしたくなかった。

 そもそも私たち家族は祖父の大統領時代についてあまり話をしなかった。祖父母も私の両親も、私たち兄弟に「普通」の生活を送らせようとしていた。だから、私たちはハリー・トルーマンの家系に生まれたことを重大なこととは考えていなかった。

 私が原爆について学んだのは、一般の人と同じく歴史の教科書や先生を通してだ。アメリカ史を学び始めるのが9歳か10歳で、より総合的な歴史を学ぶのは高校に入ってからだ。

――どのように教わったのですか。

 とてもシンプルだ。歴史の教科書は今も昔も、アメリカ史をすべて網羅しないといけない。分厚い教科書の中で原爆についての記述は1~2ページ。内容は原爆が投下された理由と犠牲者の数、キノコ雲の写真くらいのものだ。原爆の実態や具体的な被害、人々が受けた傷の深さについての記載は一切なく、原爆が戦争を終わらせた、日本とアメリカはトモダチになり、今はすべてがうまくいっているといった内容だった。私の印象もそのようなものだった。

【参考記事】原爆投下を正当化するのは、どんなアメリカ人なのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアは紛争終結へ平和支持を、ローマ教皇がプーチン

ワールド

プーチン氏、ウクライナの大規模攻撃に「反撃」 トラ

ワールド

米税制・歳出法案、マスク氏ら反対派と与党指導部の論

ビジネス

米経済活動は鈍化、関税措置で価格上昇圧力=地区連銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪んだ認知
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    女性が愛馬に「後輩ペット」を紹介...亀を見た馬の「…
  • 7
    韓国大統領選挙、イ・ジェミョンが勝利宣言「第1の使命…
  • 8
    【クイズ】金属の錆を防ぐ「クロム」の産出量が、世…
  • 9
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 10
    支持率が下がっていると言われているトランプ、アメ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 7
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 10
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 10
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

Лучший частный хостинг