アメリカのドナルド・トランプ大統領は各国と新たな関税交渉を行い、「歴史的勝利」をアピールしている。7月には、日本に課すとしていた相互関税を当初の24%から15%に抑え、合意した。しかし米紙は「他国から部品を輸入して自動車を製造するよりも、日本車を輸入するほうが関税が安くなる矛盾」を指摘。トランプ政権の関税政策によって、日米双方が損をする「lose-lose」な状況に陥ったと報じている――。
ホワイトハウスで話すドナルド・トランプ米大統領=7月31日、ワシントン
写真提供=ロイター/共同通信社
ホワイトハウスで話すドナルド・トランプ米大統領=7月31日、ワシントン

トランプ氏が叫んだ“勝利宣言”

トランプ大統領は「アメリカ・ファースト(アメリカ第一)」をモットーに、各国に関税率アップの要求を突きつけている。

一部ではその成果を認める声もあり、一定の譲歩の引き出しに成功しているとの見方があるようだ。米ワシントン・ポスト紙は、トランプ氏が「世界経済を意のままに再編している」と指摘。一方的な関税政策に各国が従いつつあると報じた。

諸外国の動向としては、欧州連合(EU)が7月27日、アメリカによる15%の関税を受け入れる枠組み協定に合意している。EUは関税受け入れと引き換えに、2028年までに7500億ドル(約110兆円)相当のアメリカ産エネルギー製品の購入と、6000億ドル(約89兆円)の新規投資を約束した。トランプ大統領は翌28日、「これまでで最大の貿易協定に署名した」と勝利を宣言している。

他国も追随している。ベトナム、インドネシア、フィリピン、イギリスは、相次いでアメリカの関税引き上げを受諾。トランプ政権が設定した期限を前に、より高い関税を回避するためやむなく妥協した形だ。

日本も大幅な譲歩を迫られた。トランプ氏は、従来2.5%だった実効関税率について、4月から5月時点の交渉で、24%の“相互”関税を導入すると宣言。自動車に関しては、一方的に25%の追加関税を設けると述べた。従来税率と合わせ、計27.5%となる。その後の交渉で数字は減少。最終的に7月、日本は15%の関税を受け入れ、さらに5500億ドル(約82兆円)の対米投資を約束することで合意に至った。

アメリカ車が売れないのは米企業の努力不足

だが、不平等な貿易の解消を謳うトランプ氏の主張の根拠は極めてあいまいだ。

協議の主な焦点のひとつとなったのが自動車関税だが、そもそも日本の自動車産業をターゲットとした追加関税は、まったく理に適っていないとの指摘も出ている。アメリカ車が売れないのは日本市場が閉鎖的なためではなく、アメリカ企業の努力不足が原因であると、複数の海外メディアが分析している。

トランプ氏は「日本は10年間でアメリカ車を1台も買っていない」と主張したのに対し、英ガーディアン紙は、実際には2024年だけで1万6707台を輸入していると指摘。日本自動車輸入組合は「加盟企業から非関税障壁に関する要望は一切ない」と明言し、自動車専門のコンサルタントも障壁の存在を否定する。

同記事は、真の問題はアメリカ側にあると論じている。GMやフォードは日本市場でマーケティングをほとんど行わず、右ハンドル仕様すら提供しない。全長6メートル近いフォードF-150は日本の狭い道路に不向きであり、「燃費が悪く壊れやすい」というアメリカ車のイメージも根強い。米消費者団体のコンシューマー・リポートによる信頼性ランキング上位4位は全て日本車、下位4位は全てアメリカ車という結果になっており、日本車への信頼性のイメージが正しいことをデータで裏付けている。