かつてサイパンは人気観光地のひとつだった。現地を訪れた作家の古谷経衡さんは「現在は、中国人観光客が圧倒的に多い。彼らにとってサイパンは悲劇の地ではなく、太平洋の絶景を望めるリゾート地でしかない」という――。(第1回)

※本稿は、古谷経衡『激戦地を歩く』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

サイパンのバンザイクリフを訪れ、黙とうされる天皇、皇后両陛下(当時)
写真=共同通信社
サイパンのバンザイクリフを訪れ、黙とうされる天皇、皇后両陛下(当時)=2005年6月

日本人にとってサイパンが「忘れられた島」になった

サイパンはいつの頃からか、日本人にとって「忘れられた島」になりました。これはサイパン島の戦い、同島の玉砕などを筆頭に、戦争の記憶が風化している云々、という話ではありません。単純にリゾート地としての側面のことを言っています。

2025年1月現在、日本からサイパンへの直行便は、ユナイテッド航空とチャーター便などの臨時便しかありません。ですから、いまサイパンに行こうとすれば、韓国の仁川空港や中国の空港などを経由して、中国や韓国系の航空会社に乗るか、ユナイテッド航空を使うかの二択です。

かつてサイパンは観光の華でした。私が大学に入学したのは21世紀の最初の年、2001年でしたが、その時には大学生ですらも、手軽で安価な旅行先としてサイパンは十分に選択肢にありました。

旅行代理店では、「サイパン3泊4日2万9800円~」という謳い文句が躍り、その値段の安さから「沖縄や北海道に行くくらいなら、サイパンに行った方が安い」という認識のもとで、卒業旅行や級友旅行をサイパンにした者は決して少なくはありませんでした。

皆さんも、おおむね2000年代初めまで、サイパンを観光で訪れた経験のある方は多いことでしょう。

航空会社の相次ぐ路線撤退で観光客87%減

ところが異変が起こるのは2005年のことです。まずJALが、サイパン路線から撤退しました。つづいて2018年にはデルタ航空が撤退し、2022年にユナイテッド航空が運航開始するまで、スカイマークが運航した途中数カ月を除いて、すべての日本発着のサイパン路線がなくなりました。

2017年の「東洋経済オンライン」の記事によると、サイパンへの日本人観光客のピークは1997年の45万人。ところが2016年には6万人にまで激減したとのことです。これは減少率にして約87%というもので、一つの観光地から、短期間にこれだけ日本人観光客がいなくなるというのは、少なくともサイパンを除いてほかに例がないでしょう。