※本稿は柴山哲也『なぜ日本のメディアはジャニーズ問題を報じられなかったのか』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
「清く正しく美しく」の世界だと信じられてきた宝塚歌劇団
宝塚は、関西の優雅で富裕な上流階級のシンボルのような存在だった。宝塚音楽学校は上流階級のスターを目指す女子の憧れの学校で、入学試験は何十倍もの競争率を誇る超難関学校だ。
その宝塚音楽学校の入学希望者が減少したという。原因は宝塚歌劇団の中の凄惨なイジメの構造が表明化したことだ。
2023年9月30日、宝塚歌劇団の有愛きいさん(25)が自宅マンションの最上階から飛び降りた。自殺と見られている。彼女を自殺に追い込んだ背景に、上級生たちの凄惨なイジメがあったことが明らかになった。自殺の前日、「精神的に崩壊している……」と母親に話していたことを「週刊文春」が伝えている。京都出身の彼女は、トップの娘役になることを夢見て日夜厳しい練習に励んでいた。
有愛さんの飛び降り自殺の前、「週刊文春」は宝塚のイジメ問題を報じた。宝塚側は「事実無根」として放置していた。有愛さんは「マインドが足りない」「嘘つき野郎」「文春なんてどうでもいい」と先輩から罵声を浴びせられ、自ら死を選んだと同誌の記事は書いている。
罵倒やヘアアイロンでやけど、壮絶ないじめの末に…
実は宝塚歌劇団員の自殺未遂事件は過去にも起こっていた。2018年、予科生が寮のバルコニーから身を投げたのだ。それにもかかわらず、「内部関係者の証言によって炙り出されたのは、壮絶イジメの実態ばかりで、それらを隠蔽し続けた劇団の膿だった」と同誌は指摘している。
2023年11月10日、遺族側代理人弁護士が東京都内で記者会見、「死亡の原因は、月250時間を超える長時間の時間外労働や複数の上級生による暴言などのパワーハラスメントにあった」とし、歌劇団と劇団を運営する阪急電鉄に対して「事実に基づく謝罪と適切な補償を求めていく」と訴えた。
パワハラの実態についてLINEの記録などから確認したところ、ヘアアイロンを額に当てられ、やけどを負ったこともあったという。このことを「週刊文春」が2024年2月に報道すると、上級生から詰問されたうえ、女性から事情を聞いた劇団側は事実無根と発表した。亡くなる直前は頻繁に呼び出され、「『下級生の失敗は、全てあんたのせいや』『マインドがないのか』『うそつき野郎』などの暴言を受けた」という。遺族は「娘を極度の過労状態におきながら、見て見ぬふりをしてきた劇団が責任を認め謝罪することを求める」としている。