2025年2月21日に発売された、『龍が如く』シリーズ最新作『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』(以下、『8外伝』)。ストーリーをクリアし、トロフィーをコンプリートするまで遊んだ率直な感想は、「充実したエンタメ体験を得られた」ということだ。
本作は、アクションゲームとしての爽快感はもちろんのこと、ストーリー面でも『龍が如く』シリーズ作品としての納得感や説得力のようなものがあった。外伝作品としてのお祭り感と相まって、多幸感とも呼べるような満足度のある作品だったと感じる。
『8外伝』は、真島吾朗の単独主人公としての起用や海賊バトルの採用など、「外伝」としての挑戦も盛り込まれた野心的な作品でもある。新たなチャレンジをしているうえで、変わらず『龍が如く』としてのおもしろさを増している、というのが、本作のすごさだ。
こうした新たな試みもそうであるし、洗練されたUIやカメラワークなどの演出からも、ゲーム作品としての進歩を感じる。「龍が如くスタジオ」は、2021年に横山昌義氏が代表・制作総指揮に就任して以降、着実に進化を重ねているように思うのだ。
しかも、『龍が如く』シリーズと言えば1年に1本以上のペースで新作を発表・発売し続けているわけで、その陰には優秀なスタッフ陣の存在があるのは間違いないだろう。
なぜ、「龍が如くスタジオ」は、新たな挑戦を続けつつ、それと同時に満足度の高いゲームを作り続けることができるのか? 優秀なスタッフ陣が生まれる土壌として、どういった体制を取っているのだろうか?
2025年3月某日、「龍が如くスタジオ」の制作総指揮を務める横山昌義氏に、『8外伝』が発売されたあとの手ごたえとともに、制作体制などについて話をうかがった。
横山昌義氏……「龍が如くスタジオ」代表・制作総指揮。株式会社セガ執行役員
※この記事には『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』のネタバレが含まれています。お気をつけください。
『龍が如く』制作総指揮が語る、『8外伝』の手ごたえ。シリーズを知らない人も楽しめ、かつファンの納得感も高い作品になった
──『8外伝』の発売後の反響や手ごたえのようなものはいかがでしょうか。
横山氏:
おかげさまでとてもいい評価をいただいています。これだけ酷評が少ない『龍が如く』はひさしぶりな気がしますね。プレイした人みんなが「おもしろかった」と言ってくれています。
──個人的には、クリアしたあとの充実感と言いますか、余韻の残り方がすばらしいと感じました。明るい雰囲気がありつつも、『龍が如く』シリーズとして非常に納得感のあるストーリーだったなと。
横山氏:
じつは、エンディング後の演出は僕が追加したんです。2024年の東京ゲームショウに出展したころのバージョンでは、エンディングはみんなで踊って終わりだったのですが、『龍が如く8』(以下、『8』)から描かれていた不老不死にまつわるエピソードや、桐生の病室に向かうシーンを追加したんですよ。
──正直、病室に向かうシーンを見るまでは、真島がハワイに行く必然性が理解できず、モヤモヤしていたんですね。「真島の性格的に、誰かに命令されておとなしくハワイに行くだろうか?」と。その疑問に対して最後の最後に綺麗に回答してくれて、とても納得感がありました。
横山氏:
当時のバージョンだと「キャラクターの行動に対する動機が薄い」と感じていたんですね。話の筋としては通っていたのですが、ロドリゲスの父親に関する謎であったり、『8』のブライスが長寿であることに対する回答なども出したかったんです。
ほかにも、マッドランティスというエリアを追加したのも僕の判断です。ゲーム性としての派手さであったり、ストーリーの驚きを足したくて、いろいろと追加していったわけです。
──ラストの桐生の病室に行くシーンも、真島の行動原理を裏付けるシーンとして追加したのでしょうか。
横山氏:
そうですね。長寿の薬である龍涎香の設定が追加されたところで、真島がそれを聞きつけてハワイに向かっていたのであれば、「桐生のために」という側面があっただろうな、とイメージが固まっていきました。
とまあここまではこれまでのシリーズ作でもよくある、ひと通り作り終えたあとのエンディングシーンの補強だったりもするのですが、ラストのラスト、あの病院内でのセリフのきっかけになったのは、RGGサミット【※】を放送したときのユーザーさんのコメントだったんですよ。
【※】RGGサミット:「龍が如くスタジオ」の最新情報が発表される配信番組。2024年の「RGGサミット2024」では、『8外伝』が発表された。
──ユーザーのコメント……? どういうことでしょうか。
横山氏:
2024年のRGGサミットで『8外伝』を発表したときにトレーラームービーを流したのですが、冒頭は椅子に座った真島の「ほな始めよか。半年前んとっから話すでエエな?」というセリフから始まりましたよね。
それに対して「エンディングで背景が病室に切り替わって、桐生に話しかけているに違いない!」という考察コメントをしていたユーザーさんがいたんです。
そのコメントを見たときに「たしかに、それもアリだよな」と(笑)。
──トレーラー発表の時点ではその考察は外れていたけど、結果的に正解になったわけですね(笑)。
横山氏:
ユーザーさんもそういう関係性に期待しているんだろうなと思いましたね。ただ、その考察をそのまま取り入れるのもどうかと思ったんです。
──それはなぜでしょうか?
横山氏:
『8外伝』は、前作までのストーリーを全部知っていないと遊べないような作品にはしたくない、という考えがありました。
ハワイと海賊がテーマという、ある意味新しい取り組みをした作品でもありましたし、本作はコア層向けの物語にするつもりはなかった。実際、作中にも「桐生一馬」という名前はほとんど出てきませんよね。
──たしかに『8外伝』は過去シリーズのストーリーを知らなくても楽しめる構成でした。
横山氏:
ただ、それと同時にシリーズファンに対するサービスもしたかったので、「最後の最後なら許されるかな」ということで、あのシーンに「桐生一馬」という存在を持ってきたんです。
作り手にとっても、ファンの方々にとっても、『龍が如く』シリーズに長く接してきた人たちが納得できるラストがあの形なのかな、と。
もともとは別のセリフを考えていたのですが、そのコメントを見て「ありがとう、そのアイデアの一部、使わせてもらうね」という感謝とともに、「いまから真島が語り出す」というエンドにしたんです。
なので、ラストのあのセリフが本作で最後に収録した音声なんですよ。真島役の宇垣(秀成)さんに「もうひとつ追加で収録します」と伝えて……。2024年の10月ごろでした。
──あのシーンが「良質なエンタメを体験したな」という余韻を生み出していると感じていて……。
横山氏:
そうですね。そういったところも冒頭にも言った通り「酷評が少ない作品」になった理由のひとつだと思います。
──『龍が如く7外伝 名を消した男』(以下、『7外伝』)でインタビューをさせていただいたときには、「外伝をシリーズ化するつもりはない」と横山さんはおっしゃっていましたが、これだけ「外伝」の人気が高まっているのを見ると、「続けていく方向になるんじゃないか」と期待してしまいます。
横山氏:
そうですね、そうなるかもしれません(笑)。
「外伝」がおもしろくなりやすい理由って、僕の中ではひとつの答えが出ているんです。「外伝」というのは、要するに「補完の話」なんですよね。本編で描き切れていない部分をあと付けできるという立てつけなので、必然的におもしろくなるのではないかと。
──なるほど。ある種、期待感に沿ったものが出しやすいというか。
横山氏:
だから、「外伝」というやり方が「より本編をおもしろくするもの」という位置づけなのであれば、今後の展開もあると思います。
その視点で言うならば、『龍が如く0 誓いの場所』も見方によっては「壮大な外伝」のような作品ですよね。『龍が如く』、『龍が如く2』などの歴史があったうえで、「それ以前の若い時代」を補完するわけですから。外伝という考え方は、おもしろい作品が作りやすいフォーマットなんだと思いますね。
──『8外伝』は初の真島単独主人公作品となりましたが、真島を主人公に据えることによって、開発陣として感じた気づきであったり、あるいは難しさのようなものはありましたか?
横山氏:
ひとつ言えるのは、記憶がある状態のまま真島を主人公に起用するというのは難しかったということです。
サブストーリーにおける真島のリアクションであったり、ゴロー王国での動物への優しさであったりというのは、真島が記憶を失っているからこそ作れるものが多かったんですよ。
『8外伝』では、「真島が後天的に獲得したパーソナリティを削るとあのようになるんだろうな」とイメージして作っていきました。つまり、ひとつ手を加えないと難しいのが真島というキャラなんだと思います。
──それはやはり、真島が「突き抜けすぎているキャラ」であることに起因するんでしょうか。
横山氏:
そうですね。真島はいわゆる「制御の効かないキャラクター」です。
たとえば、真島と冴島がメインの外伝作品を作るとした場合、それは冴島が主人公としていっしょにいるなら成り立つんですよ。真島が横にいて勝手なことをしてしまうという構造だったら成り立つ。
「おう、お前やったらいかんで」とか、「こうしたらええやん」とか、そうやって傍観することに適しているのが真島というキャラクターなんです。
そんな真島を主観として描くのであれば、今回のように「記憶喪失」のような強引な手段を取らないと無理だと思ったんです。ですから、真島の単独主人公はもう二度とないと思いますね。もう一度記憶を失うというのはさすがにないでしょうから(笑)。
──海戦が非常におもしろかったので、新しい作品でも見てみたいと思ってしまいます。
横山氏:
海戦が絡んだ作品自体を作ることは簡単なんですよ。「ハワイの核のゴミ」を、たとえばどこか別の国が引き取ることになり、その国に安全に運び入れる人員として元極道のメンバーが動員される。運搬中に謎の船に襲われて、真島や冴島が追いかける……といったシナリオにすれば、海賊ゲームとしては成り立ちますよね。「今度はスペインが舞台や!」とできるわけです(笑)。
──(笑)。冴島といえば、『8外伝』でかなりイメージが変わりました。これまでの冴島は真面目でしたし、ちょっと暗いイメージがあったというか、重い雰囲気が多かったというか。でも、本作ではいろいろと振り切れていて、印象がガラッと変わりました。
横山氏:
たぶん『8外伝』の冴島が彼の本音の部分なんでしょうね。それまでの重圧が全部抜けた姿だと思うんです。冴島はすごく長いあいだ刑務所に入っていて、出てきたら責任のある役職についてしまったじゃないですか。
でも、『龍が如く7 光と闇の行方』(以下、『7』)以降はそういった重責を下ろした感じがするんですよね。還暦という彼らの中での大きな節目があり、一方で(堂島)大吾のような頼もしい年下がいる。彼ら自身はやることがないんですよ。
そういった節目の中で、ちょっとしたタガが外れたのがおもしろかったんでしょうね。
──エンディングで冴島が踊るとは予想していませんでしたから(笑)。キャラでいえば、南や西田が本編に登場したこともグッときました。
横山氏:
でも、南や西田は登場しなくなってからかなり時間も経っていたので、シナリオを書いた段階ではけっこう不安があったんですけどね。
──不安といえば真島についても、「演技がつくことで初めておもしろくなる」といったことは、以前からおっしゃっていましたよね。
横山氏:
そうなんですよ。文字だけのシナリオだと、真島って本当におもしろくないんです。彼は演技が入ってはじめておもしろくなるキャラなんですよね。
──『8外伝』は、出演陣の演技も目を見張るものがありました。個人的には、志垣(輝彦)役の青木崇高さんのストーリー後半の演技にシビれました。
横山氏:
青木さんは、すごく「生っぽい」演技をされますよね。実写のような雰囲気があるというか。まさにその場で動いているかのような演技をしてくれます。
彼は実写ドラマ版の『龍が如く〜Beyond the Game〜』の真島役も務めてくれましたから、そういった経験も込みでぶつけに来てくれたような感じがしましたね。
──『龍が如く』はどのタイトルも出演陣の演技が際立っていますが、『8外伝』はそのさらに上を見せてくれたという印象があります。
横山氏:
大東(駿介)くんはテクニックが優れているので、声優っぽい声の出し方もできるんですよ。過去作で演じた馬場(茂樹)ちゃんは彼自身がモデルのキャラでしたが、今回のモーティマー役はそうではないので、声の音質は似ているけど発声の仕方や演技を変えてしっかりと演じ分けてくれました。
RGGサミットでも言ったのですが、今回は過去作で実績のあるキャストを中心に組んでいるんです。とくにファーストサマーウイカさんなんて、信じられないくらいすごい演技でしたよね。
──ウイカさんの演技は圧巻でした。ウイカさんが声を当てていると知っていても、そうとわからないくらいで、完全に「ノア」でしたから。
横山氏:
ウイカさんは本当にエンターテインメントの天才だと思いますね。歌えるし、踊れるし、演技もできる。しかも、フリートークも最強という(笑)。
あとは、ジェイソンを演じてくれた松田(賢二)さんも今作で一緒に仕事をするようになってから『龍が如く』シリーズにドハマりしてくれて、「龍スタTV」のようなゲーム以外のメディアもずっと見てくれているんです。
最近の『龍が如く』に携わってくれる演者の方たちって、本当に熱量が高いんですね。「数ある仕事のひとつとして引き受けてもらった」というよりは、ご本人がシリーズのファンになっていってくれるパターンが多くなっています。
『龍が如く』のブランドが大きくなってきたことも要因としてあると思うんですが、参加してくれるみなさんの熱量が高くなってきていることも、作品のクオリティに直結してきているんだろうと思いますね。
優秀なスタッフが次々と現れる「龍が如くスタジオ」の制作体制
──エンディングのスタッフロールも、ダンスパートがあるなど、印象深い内容でした。
横山氏:
今作のエンディングは、演者さんの一覧が流れたあとにダンスパートが挟まって、そのあとに制作陣のスタッフロールが流れるような形式にしています。
──その効果があってか、制作スタッフの名前がより記憶に残っています。
横山氏:
いままでのエンディングは演者さんとスタッフの名前がひとまとまりに流れていたので、その違いによってスタッフが目立っているように感じたのだと思います。
なので、それ自体は意図したわけではないんですが……。僕の持論としてスタッフロールは開発陣のエゴが出ていいと思っていて。
僕が携わった作品って、スタッフロールは黒い背景に名前が流れるだけのものが多いんですよ。あまり演出は入れないようにしています。
──なるほど、作品に携わったスタッフの名前を見てもらえるように、あえて演出などは入れないようにしているわけですね。
横山氏:
「自分の仕事を思いっきり自慢しなさい」という気持ちです。エンドロールって、ユーザーさんに我慢を強いてもいい、唯一の時間だと思うんですよ。
本作のように、スタッフロールの合間に演出が入るのはいいのですが、演出と名前が同時に流れてしまうと、どうしても演出のほうに目がいってしまいますよね。それはスタッフがかわいそうだと思うんです。
「お客さんにとってみればエンドロールは退屈だから、なにか映像があったほうがいい」というのもひとつの考え方です。でも、僕は「そこはスタッフが自慢する時間」だと思っているので、なるべく黒背景だけにしています。
──発売直前の生放送番組の中で、横山さんは「(プロデューサーの)堀井(亮佑)は天才だ」ということをおっしゃっていましたよね。堀井さんのどのようなところを見て「天才だ」と感じたのでしょうか?
横山氏:
天才天才というとちょっと言葉として安っぽくなっちゃいそうですが、堀井は『8外伝』では「プロデューサー」という肩書きになっていますが、実態はかなりディレクターに近い仕事をしているんです。ゲーム作りの部分においては、彼のほうが僕よりうまいと思っています。
龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii
— 堀井亮佑 龍が如く8外伝プロデューサー (@RyosukeHorii) February 20, 2025
発売しました!
熱いドラマと爽快バトルとユーモアが詰まった自信作。
ぜひ楽しんでください。皆さんの人生を少しでも明るく彩ってくれる一本になったら嬉しいです。
開発一同愛をもって育てたかわいいやつなんで、どうか愛してやってください。… https://t.co/52esTsnF2i
──横山さんにそう言わしめるのはすごいですね!
横山氏:
「商品づくり」という側面においては僕のほうがうまいと思うんです。「外伝作品を作ろう」ということ自体も、今回の「真島がハワイで海賊をやる」というストーリーラインなども僕の発案なので、商品設計という面は僕の分野なんです。
でも、その企画に基づいて実際にゲームを作る部分というのは、彼のほうが圧倒的に優れています。
「天才」という発言に関しては、「自分よりもぜんぜんすごい人」くらいのノリで使っているところもありますが、言ってしまえばスタッフみんなが天才なんですよ。でもそれはレオナルド・ダ・ヴィンチのように「さまざまな分野に精通した人」というわけではなくて「特定の領域においてすごい人」という意味。
──それぞれ得意分野があって、その中で能力を発揮されていると。
横山氏:
たとえば、ディレクターの上原(康輝)は「アクションものとしての『龍が如く』」のバトルを作るという点における天才です。しかも、「完成形が見えないバトルパート」をまとめきるのが非常にうまいんですよ。
というのも、上原はチームの中では「火消し隊」と呼ばれているんです。プロジェクトがピンチになるとそこに入っていって、そのときにある素材をまとめ上げて形にするのが得意なんです。
──ゼロイチでなにかを生み出すというよりは、すでにあるものを組み合わせて作るのが得意ということですね。
横山氏:
そうですね。難航しているところに駆けつけて、最高のものを作るのが彼の持ち味です。人の家の冷蔵庫にある食材で、うまい料理作っちゃうみたいな能力ですね。
堀井の場合で言うと、彼は『龍が如く』という器の中での暴れっぷりがすごい人ですね。『龍が如く』というフィールドにおいては、ミニゲームやサブストーリー、ゲーム全体のサイクルを作らせたら非常にうまい。
若かりしころ、いまではおなじみの「カラオケ」のミニゲームを入れたのも彼ですしね。
──それはもともと素養があったところに、経験などの蓄積によって肉づけがされていったということでしょうか。
横山氏:
素養の部分はかなりあると思いますが、両方ですね。
──『8』や『7外伝』もそうでしたが、『8外伝』はプレイしていて新生「龍が如くスタジオ」になってからの変化のようなものを感じます。「開発チームの当事者感」と言いますか、それが良い形でアウトプットににじみ出てきていると思うんです。
横山氏:
僕としては以前と大差があるとは思っていないんですが、あるとすれば見え方の問題だと思います。
とくに外伝作品は、いろいろと新しいことを試したり、いままでと違うものを作ったりできるフィールドにもなっているので。そういう意味では、以前より表現がしやすくなっている側面があると思いますね。
昔からインタビューなどでよく言っているのは「『龍が如く』はカレーのようなものだ」ということです。「中になにが入っていても結局はカレー味にまとまるから、いろいろとやってみて失敗してみなさい」というマインドですね。
──開発者視点では、ゲーム性の面でもチャレンジしやすい環境が整っているわけですね。
横山氏:
あとは、単純にメンバーの入れ替わりが影響しているところもありますね。『7』から見ても3分の1くらいは入れ替わっていると思います。若い人がかなり入ってきているんですよ。
「龍が如くスタジオ」では、『龍が如く』シリーズ以外にも、『バーチャファイター』や『Project Century』などのタイトルを並行して開発しています。根幹となるメンバーはあまり変わることはありませんが、全体を通して見るとかなりの人数がタイトルを入れ替わっているので、そうした混ざり合いがうまく作用しているのかもしれませんね。
──ひとりのスタッフがずっと『バーチャファイター』の仕事だけをするのではなくて、たとえば『バーチャファイター』が忙しいときは『バーチャファイター』の仕事を担当し、落ち着いたら『龍が如く』の開発に携わる、といったこともあるんでしょうか?
横山氏:
それはぜんぜんあります。忙しいタイトルがあるときはヘルプで駆けつけて手伝うことも多いですよ。
『龍が如く8』の発売前で忙しかった時期は『バーチャファイター』から人が回ってきたり、反対に『バーチャファイター』の発表映像をTGA【※】で出すときは『龍が如く』から背景チームが手伝いに行ったりしていました。
僕が管轄する第一事業部は、300名超のスタッフが在籍していますが、タイトルごとのチームできっかり分かれているというよりは、全員で回していく感じですね。
【※】TGA:「The Game Awards」の略。毎年12月に行われるビデオゲームの式典で、その年の最も優れたゲームを表彰する「Game of the Year」の発表や、新作ゲームのトレーラーお披露目などが行われる。2024年のTGAでは、「龍が如くスタジオ」の手がける『Project Century』や『バーチャファイター』シリーズの新作が発表された。
──そういうスタッフの使い方は珍しいですよね? ひとつのタイトルに割り当てられて、その作品の仕事だけをするスタッフ運用が多いような気がします。
横山氏:
『モンキーボール』シリーズなどの例外はありますが、「フォトリアルな人間が出てくる」という点で、「龍が如くスタジオ」のゲームは似通っているところが多いんですよ。
たとえばキャラクターデザイナーであれば、『龍が如く』であっても、『バーチャファイター』、『Project Century』でも、仕事の内容にそんなに差がないんです。だから手伝いやすいというのはあるかもしれませんね。
──珍しいという点だと、堀井さんも上原さんもそうですが、これだけ優秀なプロデューサーやディレクターが出てくるというのも昨今あまりないことなんじゃないかと思います。
横山氏:
でも、表に名前が出ていないだけでどこにもそういった人材はいると思いますよ。
当たり前のことですが、ゲームってひとりでは作れませんよね。「堀井が優秀だ」といっても、堀井がひとりで作っているわけじゃない。堀井の部下もすごかったりするんですよ。
結局のところ、責任者や立場が上の人というのは、高い報酬が得られる分、責任を負うリスクも高いですよね。その最たる例が僕自身で、『龍が如く』に関するあらゆる批判を受け止めなければならない。でも、言ってしまえばそれが責任であり、僕の仕事なんですよ。
ある意味、下のスタッフたちの功績でいまの僕があるわけで、それは堀井も同じです。上に立つ人間というのは、いろいろな能力や才能を持っているメンバーのコマ配置をきちんとしてあげなければいけないんですよね。
そのうえで、役職のある人間は表に出てしゃべるし、批判も受ける。顔が見えているほうが責任の所在もわかりやすいし、名声も得ることができるから、僕としてはなるべくスタッフを表に出してあげるようにしているんです。
極端な話、僕だけが表に出るという形にすることもできるのですが、彼らも彼らでしっかりと称賛と批判を浴びることで強くなってほしいという面もありますね。
──人材育成という点では、とくに特殊なやり方はされていないのでしょうか?
横山氏:
僕はマイクロマネジメントのようなことは一切しないですからね。「育てた記憶がない」というか、ああだこうだと教育したことはほとんどありませんね。
その人の能力って必要な場面になったときに、あとは経験を積んでいく中で、台頭する人は勝手に出てくるんだろうなと思っています。
たとえば上原の例で言うと、さきほど言ったような「火消し」の仕事がすごく優秀。「すでにある素材から作り上げる」とか、ちゃんと工程を立ててスケジュール管理をしたり、困っている部下がいたらサポートしたり、想定通りのものを作るという点では最高に仕事ができる人間なんです。だから、上原はゼネコンに入ったらすごく出世をしていたタイプだと思いますね。
──(笑)。
横山氏:
そういう人って、チームには絶対に必要ですよね。上原のほかには、チーフプロデューサーの阪本(寛之)も似たようなタイプです。彼はずっと僕と組んでいるので、僕が「これで行こう」と言ったことをなんとかして実行してくれるんですよ。阪本の場合はさらに人を大きく動かせる能力もあるので、海外での収録など人が多く関わる案件などを指揮することにも長けています。
反対に、僕に近いのは堀井です。自分の得意な領域でいろいろなことができるタイプですね。
そう考えると、各々のジャンルの中で、勝手にサッカーのポジションを探しに行っているような気がしますね。
──なるほど、点取り屋のタイプがいて、ディフェンダーやゴールキーパータイプもいると。
横山氏:
『キャプテン翼』で言ったら、僕は絶対に日向小次郎ですね(笑)。ワントップで最前線にいて、そのうえガンガン指示も出す。そこに対して阪本が、2列目からいかに球を集めるかがんばってくれて……。ほかにもボランチに上原がいて、ウィングに堀井がいて横から走ってきて「ちょっと目立とうかな」とか(笑)。
各々がそういうポジションを自分で取りにいっている感じなので、「お前はこういう仕事をしろ」といった指示はしたことがないですね。
──チームには、横山さん以外に「オレが絶対に点を獲ってやる」という日向小次郎タイプはいるのですか?
横山氏:
それで言うと……いないかもしれません(笑)。僕自身が空前のワントップ気質なので。でも、僕がいなかったらいなかったで、また別の日向くんが出てくるんだと思いますよ。そのうえでその日向くんは、僕とは違ってちゃんとポストプレイをしてくれるタイプかもしれませんし。
ポジション被りがある以上、それで苦労している人もいるかもしれませんが、みんながそれぞれうまくポジション取りできている感じがしますね。
──ちなみに、「龍が如くスタジオ」の300人全体で複数タイトルを回しているというお話でしたが、『龍が如く』専属のスタッフ数はどれくらいなのでしょうか。
横山氏:
きちっとした専属というのはそれほど存在しません。実際僕も阪本も堀井もいろいろなプロジェクトを兼任しているという意味でいえば専属ではないので(笑)。繁忙期で7、80人くらいだと思いますね。人数規模としては、1作目からいままであまり変わっていません。
──ハード性能の向上とともに制作規模も大きくなりそうなものですが、そうではないのですね。
横山氏:
そうですね、意外となんとかなってしまうというか……。新しいハードに移行するときはどうしてもたいへんなのですが、ハードの性能が上がるのと並行して、制作環境も良くなっていくので。
たとえばいまだと、「3Dデジタイズ」という技術があって、人の顔をスキャンすることで3Dモデルをあらかた作ってくれるツールがあるんです。もちろんプレイステーション2時代と比べたら工数自体は増えていますが、ハード性能の上昇と比例するほどではないんですよね。
──なるほど。『8外伝』発売直前の生放送では、開発チームに密着したメイキング映像を流されていましたが、どういった意図があったのでしょうか?
横山氏:
これまでもRGGサミットなどでメイキング映像を流していましたが、ああいった映像って狙って撮るようにしないとなかなか素材がなくて困ることがあるんです。
加えて、ゲームのメイキング映像って、ずっと室内だし、同じスタジオでのモーションキャプチャーや収録の模様になるので、画替わりがしないという問題もあって。
それならいっそ「普段からカメラを回すことにしよう」という発想で、議事録係のスタッフを用意して、制作風景をつねに撮影することにしたんです。キャラクターが生まれる瞬間の風景などは、ユーザーさんとしても興味のあるポイントだろうという考えもありました。
──「つねに撮影されている」ということがストレスにはならなかったのですか?
横山氏:
それに関してはもうみんな慣れました(笑)。さすがに外部のカメラマンを入れると緊張してしまうので、内部のスタッフが撮影するようにしましたし、もうそれが日常の風景になっていますね。