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タイでポーカー世界大会? ギャンブルに厳しい国の、驚くべき一手

木曽崇国際カジノ研究所・所長
AIをつかって筆者生成

2025年、ポーカーの世界地図に、思いがけない地名が加わることになりそうです。「微笑みの国」タイの首都バンコクで、なんと世界三大ポーカータイトルの一つに数えられる「World Poker Tour(WPT)」が、政府の後ろ盾を得て開催されるというのです。

ワールド・ポーカー・ツアー、タイで史上初のライブポーカートーナメントを開催

World Poker Tour To Host Groundbreaking First-Ever Live Poker Tournament in Thailand(SOMUCH POKER)

https://somuchpoker.com/news/world-poker-tour-wpt-prime-thailand?utm_source=chatgpt.com

「あのタイでポーカーを? しかも政府が支援?」――この報に、多くの業界人が耳を疑ったことでしょう。なにしろタイは、古くからギャンブルに対して厳しい姿勢を貫いてきた国。日本の刑法とは異なり、1935年には独立した「仏暦2478年賭博法(Gambling Act B.E. 2478 (1935))」が制定され、金銭を賭ける行為は原則として禁じられています。違反すれば、当然、厳しい罰則が科せられます。そんな国が、国際的なポーカーイベントの開催を、しかも政府みずから後押しするとは。これはまさに「異例」という言葉だけでは片付けられない、大きな驚きです。この大胆な決断の背景には、一体どのような物語が隠されているのでしょうか。

鍵は「ソフトパワー」戦略? ポーカーを文化と経済の追い風に

この計画を推し進める中心となっているのは、タイの観光・スポーツ省です。大臣自らが先頭に立ち、国の国際会議展示ビューロー(TCEB)も、開催に向けた支援や国際的な広報活動に力を注いでいます。

その背景には、タイ政府がいま国を挙げて取り組んでいる「One Family One Soft Power(OFOS)」という国家戦略の存在があります。これは、映画、音楽、スポーツ、タイ料理、ゲームなど、タイが世界に誇る様々な魅力――いわゆる「ソフトパワー」を最大限に活かし、経済成長を促し、国際社会における国のイメージを高めようという壮大な構想です。具体的には、観光、食、映画、ファッション、フェスティバル、スポーツ、音楽、アート、デザイン、ゲーム、文学、ウェルネスといった13の重点分野において、2027年までに20万人の専門人材を育成し、年間で実に約4兆バーツ(日本円にして約16兆円)もの経済効果を生み出すことを目指しています。タイ政府は、近年国際的な注目度が高まっているポーカーも、このソフトパワー戦略を推進する要素の一つと捉え、支援へと舵を切ったのです。

最大の壁「法律」をいかにして乗り越えたか? 国際的な評価の高まりを追い風に

しかし、いかに国策とはいえ、乗り越えなければならない大きな壁がありました。それが、先にも触れた厳格な賭博法です。参加費を募り、勝者に賞金を支払うポーカー大会は、そのままではこの法律に抵触する恐れがありました。

タイ政府がこの法的な難題をクリアする上で、大きな支えとなったのが、ポーカーに対する国際的な評価の高まりでした。近年、ポーカーは運だけでなく、プレイヤーの技能や戦略、心理的な駆け引きが勝敗を大きく左右する「マインドスポーツ」としての地位を確立し、国際マインドスポーツ協会(IMSA)の公認も得ています。そして、多くの国や地域で、「結果が主に運ではなく、プレイヤーの技能によって決まるゲームは、純粋なギャンブルとは区別する」という法的な考え方が採用されていること。タイ政府は、こうした国際的な基準や評価を考慮し、「ポーカーは賭博法が禁じる賭博には該当しない」との判断を下しました。事実、隣国の台湾などでも、この考え方に基づいて近年大規模なポーカー大会が開催されるようになっており、タイの今回の決断も、こうした世界の潮流に沿ったものと言えるでしょう。

真の狙いは何か? 国の新たな魅力発信と、未来への布石

では、タイ政府がこれほどの熱意をもってWPTを誘致する、その真の狙いはどこにあるのでしょうか。最も大きいのは、世界が注目するポーカーイベントを通じて、「新しいタイ」のイメージを力強く発信し、世界中からさらに多くの観光客を惹きつけたいという願いでしょう。国際的な大会が成功裏に開催されれば、選手や観客、メディア関係者など、数多くの人々がタイを訪れ、宿泊、飲食、交通といった多岐にわたる分野で、大きな経済効果が期待されます。

そしてこの動きは、タイが未来に向けて描く、より大きな構想への重要な一歩とも考えられます。それが、「統合型エンターテインメント事業法案」の存在です。カジノを含む大規模な統合型リゾート(IR)の設立を合法化することを目指すこの法案は、現在(2024年末~2025年初頭時点)、政府と国会で慎重に議論が進められています。その行方はまだ定かではありませんが、もし実現の運びとなれば、タイの観光産業やエンターテインメント界は、まったく新しい時代の幕開けを迎えることになります。

今回のWPT開催支援は、単に華やかな国際イベントを一つ誘致するという意味合いを超え、タイが観光大国としての魅力を一層深め、エンターテインメントの世界においても新たな輝きを放つための、未来への扉を開く鍵となるのかもしれません。微笑みの国が踏み出す、この次なる一歩に、今、世界の熱い視線が注がれています。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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