「野茂は野球ができなくなるんじゃないか」近鉄同僚が見た野茂英雄と球団の“決裂”と“MLB移籍”「どうやって行くんだ？」「絶対無理や」

　1994年オフに近鉄選手会長となった石井浩郎は、野茂英雄の“苦悩の決断”を本人から聞いたという。

「具体的にどういう言われ方だったかは、ちょっと定かに覚えてはないですけど、とにかく球団からは『もう必要ない』というか、そのようなことを言われたと。ホントにショックを受けたという話を、野茂から聞いたんですよね」

　石井が明かしたその衝撃のやり取りは、佐野重樹（現・慈紀）も聞いた「脅し」ともいえる「任意引退同意書」に署名するまでの、シビアな交渉の中で生じたものだろう。

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　そうしたショックが重なり合った末、野茂がそれなら「夢」を追うという決断を下し、野球協約の盲点を代理人の団野村と精査し、いわば“合法的渡米”の策を見出したという、それこそ必死の努力を重ねたという悲壮な決意が、そこには浮かび上がってくる。

近鉄にもう残ることはない

石井が野茂から聞いていたこととは　©Koji Asakura

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　石井にも、野茂がもう引き下がれない状況にあることが分かったという。

「野茂から『メジャーに行きたい』っていうのは、近鉄に入る前からずっと聞いていたんです。裏で交渉しているのも聞いていましたし、近鉄にもう残ることはない。もう強い意志で残ることはまずない、という雰囲気を感じ取っていたんですよ。

　かといって、行く道がないだろ、って、みんな思っていましたよね。今の野球協約でアメリカに行く、アメリカと交渉して、日本のプロ野球を辞めて、向こうに行くすべがあるのかと」

そんなことができるのか？

　どうやって行くんだ？　本当にそんなことができるのか？　野茂の選択肢には、当時の状況と認識では、ことごとく、疑問符しか浮かんでこない。

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