「子どもがいつの間にか都合の悪いことを隠すようになったのは、私の聞き方の問題だった。気づけてよかった」。こんな感想が寄せられているのが、書籍『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』(日経BP)です。本パートでは同書から抜粋して、多くの人の悩みの種である人間関係に関連する箇所を見ていきます。4回目のテーマは、「聞く力」。認知の特徴によってしてしまいがちな聞き方の問題点を紹介します。
「都合の悪い話」、無愛想に聞いていませんか
話を聞くことは、コミュニケーションだけでなく、人間関係の上でも大事なスキルだと知られてきました。そのため、「まずは話を聞こう」と心がけている方も多いのではないでしょうか。
しかし、「話をよく聞こう」と心がけていても、それでも多くの人がうまく聞くことのできない話があります。
その話とは、「耳の痛い話」「自分にとって都合の悪い話」です。
「できることなら、いい報告だけ受けていたい」というのは、誰もが心のどこかで思っていることでしょう。しかし現実はそうではありません。むしろ、上司という立場になると、悪い報告ばかりを受けているような気持ちになるかもしれません。実際にはいいこともたくさん報告されているはずなのに、「悪い報告」ばかりのように感じてしまう。これもまた、私たちが持ちやすいバイアスの1つです。
このとき、多くの人が無意識に醸し出してしまうのは「話を聞きたくない雰囲気」です。
イヤな報告をしなきゃいけない人の心の内
翻って、「悪い報告」をする側のことを考えてみましょう。そもそも「悪い報告」はなるべくしたくないと思うのが人の自然な気持ちです。それでも、しないわけにはいかないということで上司に切り出したところ、上司が「話を聞きたくない雰囲気」を醸し出してきた。となれば、早く話を切り上げたくなって当然です。
こうした双方の感情が態度に影響して、本来は共有しなければいけない大切な情報が十分に伝えられなかったり、形だけの報告になってしまったりするのです。これは後の、
「あのとき報告しました」
「いや、そんな話は聞いていない」
といったやりとりの発端ともなり得ます。あるいは、日本企業で改ざんや粉飾などの不祥事が絶えない背景には、こうした上司の無意識の雰囲気があるのかもしれません。
そうした事態を防ぐ意味でも、どんな話に対しても聞く耳を持つというのは、とても大切な姿勢といえるでしょう。
一瞬の反応をコントロールするのは難しい
「どんなときにも話を聞く」といっても、上司も人間である以上、自分に都合の悪い話を聞く際に「イヤだな」と思ってしまうのは、ある程度、仕方のないことかもしれません。私たちの思考や行動と感情は切り離せないということは、これまでもお伝えしてきた通りです。そのため、聞きたくない話を聞いた瞬間に、無自覚のうちに顔をしかめてしまった……というようなことは、誰にでも起こり得ます。
この一瞬が、相手に与える影響は多大です。「先生に注意された」という事実が、「先生は声を荒らげて怒鳴りつけた」という記憶に変わってしまうように、そこにネガティヴな感情があると、相手の些細な行動もネガティヴに脚色されてしまいます。そしてその脚色を含んだ記憶が、現実に起きたことのように記憶されてしまう恐れがあるのです。
部下が失敗の報告をするときには、すでにそこに「ネガティヴな感情」があります。ですから上司は、自分の態度にいつも以上に注意深くあらねばなりません。
失敗の報告を、あえて褒めたほうがいい理由
無意識の表情の変化すら、相手に影響を与えてしまうのですから、上司としては、「イヤな報告を受けたときこそ、相手を褒める・感謝する」くらいの心づもりが必要です。
「リスクを早く報告してくれたから、早めに手を打てて助かった」
「君の報告のおかげで、何とか取り戻せたよ。ありがとう」
こうした「部下のホウレンソウ(特にネガティヴなもの)に対して褒める」というフィードバックを続けているうちに、「失敗を報告したら、褒めてくれた」という話が、部下の間に広まるようになります。そうすると、ポジティヴサイクルが回り始めます。
ミスの報告に対するハードルは大きく下がり、部下は小さなミスでも報告をしてくれるようになるはずです。取り返しがつかなくなる前に、皆があなたに報告をしてくれるようになる。このサイクルを生み出すことができれば、現場の把握は驚くほどラクになるはずです。
今井むつみ著/日経BP/1870円(税込み)