世帯年収1000万でも… 東京の住宅価格高騰に悩む子育て世代
「家賃が高すぎて、家が見つからない!」
去年、福岡から東京に転勤してきた私は、東京の家賃の高さに衝撃を受けました。
夫と0歳の娘の3人家族ですが、福岡と同じような条件で家賃は2倍以上…。いったい、都内で働く子育て世帯はどうしているのでしょうか?
取材を進めると、値上がりが続く住宅費によって新たに子どもを持つのをためらったり、隣の県に引っ越す決断をした人たちがいることが見えてきました。
(おはよう日本 ディレクター 松尾聡子)
去年、福岡から東京に転勤してきた私は、東京の家賃の高さに衝撃を受けました。
夫と0歳の娘の3人家族ですが、福岡と同じような条件で家賃は2倍以上…。いったい、都内で働く子育て世帯はどうしているのでしょうか?
取材を進めると、値上がりが続く住宅費によって新たに子どもを持つのをためらったり、隣の県に引っ越す決断をした人たちがいることが見えてきました。
(おはよう日本 ディレクター 松尾聡子)
2人目がほしいけれど…今の家では無理
「なんにも憂いなく、子どもが産めるといいなと思うんですけど…」
そう話すのは、東京・品川区に住む30代の中村さん夫妻(仮名)。ともに都内の企業で働きながら、2歳の娘を育てていますが、2人目を持つことに踏み切れずにいるといいます。
そう話すのは、東京・品川区に住む30代の中村さん夫妻(仮名)。ともに都内の企業で働きながら、2歳の娘を育てていますが、2人目を持つことに踏み切れずにいるといいます。
現在の住まいは、2LDKの賃貸マンション。55平方メートルで、家賃は月20万円です。
在宅勤務ができない業務もあるため、2人とも週の半分は出社しています。
子どもが体調を崩すことも多く、保育園への迎えなどを考えると、東京都心にある職場まで30分程度で通える場所に住み続けたいといいます。
在宅勤務ができない業務もあるため、2人とも週の半分は出社しています。
子どもが体調を崩すことも多く、保育園への迎えなどを考えると、東京都心にある職場まで30分程度で通える場所に住み続けたいといいます。
中村さん(仮名)・妻
「いま娘と遊ぶときは、リビングのソファを動かしてスペースを作っていますが、小学校に上がる頃には物も増えるはずなので、手狭になるんじゃないかと考えています。娘にきょうだいがいればいいなとすごく思うけれど、今の広さでは1人が精いっぱい。2人目が生まれたら、絶対ここで住み続けるのは無理です」
「いま娘と遊ぶときは、リビングのソファを動かしてスペースを作っていますが、小学校に上がる頃には物も増えるはずなので、手狭になるんじゃないかと考えています。娘にきょうだいがいればいいなとすごく思うけれど、今の広さでは1人が精いっぱい。2人目が生まれたら、絶対ここで住み続けるのは無理です」
いつか2人目を持つことも視野に入れ、今より広い3LDKのマンションを都内で探しましたが、希望の物件はどれも分譲価格で1億円超え。月々の支払いを試算すると30万円以上でした。
世帯年収が1000万円を超える中村さん夫妻ですが、身の丈にあっていないと感じ、ローンを組む決断はできなかったといいます。
賃貸の物件も探しましたが、いまより10万円近く家賃が上がるため難しいと感じています。
賃貸の物件も探しましたが、いまより10万円近く家賃が上がるため難しいと感じています。
買うのも借りるのも難しい
中村さん夫妻のように、家探しに苦労する子育て世代は少なくありません。
不動産情報会社アットホームによると、23区内の中古分譲マンションの価格は7年で約40%上昇しています。
不動産情報会社アットホームによると、23区内の中古分譲マンションの価格は7年で約40%上昇しています。
背景には、円安の影響で、東京都心の物件を投資目的で購入する海外の富裕層が増え、分譲マンションの価格が押し上げられたことがあります。
その結果、住宅の購入を諦めた子育て世帯が賃貸市場に流れ、ファミリー向き物件の需要が増加。単身者向きの物件ではほとんど変動がないのに対し、ファミリー向きの物件は約35%家賃が値上がりしているのです。
その結果、住宅の購入を諦めた子育て世帯が賃貸市場に流れ、ファミリー向き物件の需要が増加。単身者向きの物件ではほとんど変動がないのに対し、ファミリー向きの物件は約35%家賃が値上がりしているのです。
不動産情報会社の担当者は「東京都心は、子育て世帯にとっては家を買うのも借りるのも難しい状況だ」と分析しています。
中村さんは、住宅価格の高騰によって人生の選択肢が狭まっていることに、もどかしさを感じているといいます。
中村さんは、住宅価格の高騰によって人生の選択肢が狭まっていることに、もどかしさを感じているといいます。
中村さん(仮名)・夫
「共働きだったら、東京に家を買えるだろうなと思っていました。今はもう、僕たちのようなサラリーマン家庭にとっては、東京に住むこと自体がぜいたくなことなのかもしれないです。こんなにマンションが建っているのに、高いせいでいろんなチャンスがなくなったりするのは、ちょっともったいないと感じています」
「共働きだったら、東京に家を買えるだろうなと思っていました。今はもう、僕たちのようなサラリーマン家庭にとっては、東京に住むこと自体がぜいたくなことなのかもしれないです。こんなにマンションが建っているのに、高いせいでいろんなチャンスがなくなったりするのは、ちょっともったいないと感じています」
「脱・東京」したけれど…
こうした中、より安く、広い住まいを求めて近隣の県に移り住む「脱・東京」の動きが、子育て世代に広がっています。
去年、東京と神奈川、埼玉、千葉の人口移動を分析したところ、子育て世代にあたる30代と40代、その子ども世代にあたる14歳以下は、東京から3県への転出超過となり、合わせて1万7000人余りにのぼりました。
そうした「脱・東京」に踏み切ったひとり、神奈川県に住む斉藤麻里奈さんです。都内のIT企業で働きながら、夫婦で5歳と1歳の子どもを育てています。
もともと、東京・世田谷区で家を借りていましたが、第二子の妊娠をきっかけに都内で住宅の購入を検討。しかし予算が合わず、横浜市に2LDKで60平方メートルのマンションを購入しました。
都内よりも子どもが遊べる場所が多く、子育てをしやすい環境ではある一方で、斉藤さんを悩ませているのが「通勤時間の長さ」。いままで片道20分だった通勤が1時間になったことで、仕事や家事、育児にかけられる時間が大きく減ってしまったのです。
特に困るのが、子どもが体調を崩したときです。この日も、下の1歳の娘が熱を出し、病児保育の施設に夕方5時半までに迎えにいかなければなりませんでした。
もともと、東京・世田谷区で家を借りていましたが、第二子の妊娠をきっかけに都内で住宅の購入を検討。しかし予算が合わず、横浜市に2LDKで60平方メートルのマンションを購入しました。
都内よりも子どもが遊べる場所が多く、子育てをしやすい環境ではある一方で、斉藤さんを悩ませているのが「通勤時間の長さ」。いままで片道20分だった通勤が1時間になったことで、仕事や家事、育児にかけられる時間が大きく減ってしまったのです。
特に困るのが、子どもが体調を崩したときです。この日も、下の1歳の娘が熱を出し、病児保育の施設に夕方5時半までに迎えにいかなければなりませんでした。
予定より1時間早く退社せざるをえないため、ミーティングを30分足らずで切り上げて、走って帰宅しました。
先週も上の子が熱を出し、予定日までに資料を完成させることができなかったという斉藤さん。翌日に持ち越す仕事を少しでも減らせるよう、終わらなかった分は自宅で片づけます。子どもの寝かしつけなどを終え、夜10時から仕事を再開して深夜になることも増えました。
夫婦で家事や育児を分担していますが、夫は帰宅が遅くなることも多く、夜の子どもの世話は主に斉藤さんが担っています。そのため、やむをえず自分の睡眠や食事の時間を削ることもあるといいます。
先週も上の子が熱を出し、予定日までに資料を完成させることができなかったという斉藤さん。翌日に持ち越す仕事を少しでも減らせるよう、終わらなかった分は自宅で片づけます。子どもの寝かしつけなどを終え、夜10時から仕事を再開して深夜になることも増えました。
夫婦で家事や育児を分担していますが、夫は帰宅が遅くなることも多く、夜の子どもの世話は主に斉藤さんが担っています。そのため、やむをえず自分の睡眠や食事の時間を削ることもあるといいます。
斉藤麻里奈さん
「睡眠時間を削ると本当に心が死んでいくのを感じるので、できるだけ睡眠時間を削りたくなくて、その結果ご飯を食べる時間がなくなってしまうこともある。忙しすぎて、おなかがすいたっていう感覚もあまりないんですよね。(この苦しい状況は)いつか終わると思って、耐えているというのが正直なところです」
「睡眠時間を削ると本当に心が死んでいくのを感じるので、できるだけ睡眠時間を削りたくなくて、その結果ご飯を食べる時間がなくなってしまうこともある。忙しすぎて、おなかがすいたっていう感覚もあまりないんですよね。(この苦しい状況は)いつか終わると思って、耐えているというのが正直なところです」
また、「脱・東京」で毎月の住宅費は下がった一方で、子育てに関する出費が想定より増えたことにも頭を悩ませています。
たとえば、病児保育の費用。横浜市は、以前住んでいた世田谷区と比べると行政の病児保育施設の数が少なく、予約が取りづらい状況です。
毎週交互に子どもが体調を崩した先月は、予約が取れずに高額な民間施設を利用した日も多く、病児保育代だけで5万円かかったといいます。
たとえば、病児保育の費用。横浜市は、以前住んでいた世田谷区と比べると行政の病児保育施設の数が少なく、予約が取りづらい状況です。
毎週交互に子どもが体調を崩した先月は、予約が取れずに高額な民間施設を利用した日も多く、病児保育代だけで5万円かかったといいます。
ほかにも、東京都であれば無料だった第二子の保育料が、横浜市の場合は半額支払う必要があるなど、引っ越し前は想定していなかった費用がかかるようになりました。
斉藤麻里奈さん
「東京の近隣県に住めば住宅費が抑えられ、少しはゆとりある生活ができるようになるんじゃないかと思っていました。でも、想像以上に子育てと仕事の両立が難しくて、夫とは、東京に住んでいたほうがよかったんじゃないかと話しています。自分たちが何をすれば今のつらい状況を解決できるのか、考えても考えても答えが見つからないんですよね。これからの若い世代の間で、子どもを2人もうけて生きるという選択肢がなくなっちゃうんじゃないかと不安になります」
「東京の近隣県に住めば住宅費が抑えられ、少しはゆとりある生活ができるようになるんじゃないかと思っていました。でも、想像以上に子育てと仕事の両立が難しくて、夫とは、東京に住んでいたほうがよかったんじゃないかと話しています。自分たちが何をすれば今のつらい状況を解決できるのか、考えても考えても答えが見つからないんですよね。これからの若い世代の間で、子どもを2人もうけて生きるという選択肢がなくなっちゃうんじゃないかと不安になります」
高騰する住宅価格 対策は?
OECD=経済協力開発機構が先月出したレポートでは、世界的にも住宅価格の高騰が少子化に影響すると指摘されています。
少子化対策に詳しい専門家は、対策の必要性を唱える一方、難しさもあると言います。
少子化対策に詳しい専門家は、対策の必要性を唱える一方、難しさもあると言います。
甲南大学 前田正子教授
「日本の若い人たちが、ローンを組んでささやかな家を買うということもできなくなる状況を放置していいのかという問題です。保育園が足りなければつくったり、小児医療費の助成をしたり、そういったことはできますが、マーケットで価格が決まる住宅にどうやって手を入れるのか。複合的な問題があるので、解決は簡単ではありません」
「日本の若い人たちが、ローンを組んでささやかな家を買うということもできなくなる状況を放置していいのかという問題です。保育園が足りなければつくったり、小児医療費の助成をしたり、そういったことはできますが、マーケットで価格が決まる住宅にどうやって手を入れるのか。複合的な問題があるので、解決は簡単ではありません」
住宅費高騰に対する子育て世帯への支援として、具体的には
▼子育て世帯への家賃補助
▼都営住宅入居の年収要件緩和
などが考えられます。
しかし、子育て世帯に家賃補助などをすれば貸し手が賃料を上げる可能性もあり、マーケットの反応が予測できないなか、即効性のある対策は難しいと前田教授は話しています。
根本的な少子化の解決には、長時間労働の是正や地方での雇用創出など、東京都心以外でも暮らせる選択肢をつくり、東京一極集中を緩和することが重要だということです。
▼子育て世帯への家賃補助
▼都営住宅入居の年収要件緩和
などが考えられます。
しかし、子育て世帯に家賃補助などをすれば貸し手が賃料を上げる可能性もあり、マーケットの反応が予測できないなか、即効性のある対策は難しいと前田教授は話しています。
根本的な少子化の解決には、長時間労働の是正や地方での雇用創出など、東京都心以外でも暮らせる選択肢をつくり、東京一極集中を緩和することが重要だということです。
特効薬ない現状 多面的な対策を
「共働きなら、東京に家が買えると思っていたのに…」
中村さん夫妻のように、私もそう思っていたひとりでした。残念ながら、この状況はすぐに変わるとはいえません。
住宅費の高騰を抜本的に解決することは難しいですが、今月の東京都知事選挙で当選した小池都知事は公約のなかで「子育て世帯の家賃負担の軽減」をあげました。
今後、この状況がどうなっていくのか、ひとりの当事者としても注視していきたいと思っています。
住宅費をまかなうために、家事や仕事でいっぱいいっぱいになりながら、綱渡りのような生活をする。そんな暮らしを、次の世代がしなくても済むことを願って。
(2024年7月18日 「おはよう日本」で放送)
中村さん夫妻のように、私もそう思っていたひとりでした。残念ながら、この状況はすぐに変わるとはいえません。
住宅費の高騰を抜本的に解決することは難しいですが、今月の東京都知事選挙で当選した小池都知事は公約のなかで「子育て世帯の家賃負担の軽減」をあげました。
今後、この状況がどうなっていくのか、ひとりの当事者としても注視していきたいと思っています。
住宅費をまかなうために、家事や仕事でいっぱいいっぱいになりながら、綱渡りのような生活をする。そんな暮らしを、次の世代がしなくても済むことを願って。
(2024年7月18日 「おはよう日本」で放送)
おはよう日本 ディレクター
松尾聡子
令和元年入局
福岡局を経て現所属
娘(0歳)の子育てと仕事の両立を模索しています
松尾聡子
令和元年入局
福岡局を経て現所属
娘(0歳)の子育てと仕事の両立を模索しています