仕事から帰ったら、家事が山積みでヘトヘト……。特に掃除は時間も体力も使う大変な家事として待ち構えています。
「もし、掃除の時間を別のことに使えたら……」
そんな願いを叶えてくれるのが「ロボット掃除機」。さまざまなメーカーから登場していますが、その名を聞くと、「あぁ、ルンバね」と答える人も多いのではないでしょうか。
アイロボット社の床掃除ロボットは、全世界の累計出荷台数5,000万台以上、国内でも累計600万台を突破。その中でも「ルンバ」は多くユーザに支持され、今やロボット掃除機の代名詞となっているモデルです。
そんなロボット掃除機ルンバが、2025年1月に一部モデルで価格改定を実施。最大9,900円の値下げが行われ、「ルンバ、ちょっと高いな……」と諦めていた人にとっては、またとないチャンスが到来しています。
しかし、この物価高が続く中、一時的なセールではなく、価格自体が下げられた背景とは? 疑問も絶えません。
そこで今回は、アイロボット・ジャパン代表執行役員社長 挽野 元(ひきの はじめ)氏への独占インタビューを実施。価格改定の真相と、ルンバの価値、そして今後の展望まで。ロボット掃除機の代名詞に吹きつつある、変革の風をお伝えします。
なぜ? ルンバが突如1万円も値下げした真相
冒頭でも触れた通り、アイロボット社は2025年1月に一部ルンバの価格改定を実施しました。対象となったのは、以下の3機種。
・Roomba Combo Essential robot:3万9,300円 → 3万4,600円
・Roomba Combo i5+:7万9,000円 → 6万9,100円
・Roomba Combo j5+:10万8,700円 → 9万8,800円 ※
特に注目すべきは、エントリーモデルである「Roomba Combo Essential robot」、これはロボット掃除機市場全体を見渡しても魅力的な価格帯です。
※現在開催中のルンバ新生活応援キャンペーン(4/15まで)では、該当機種もさらに割引価格になっています。
果たしてこの価格改定の狙いとは? 詳しくお話をお伺いしました。
ーー今回の価格改定は、値下げ幅も大きく衝撃的なニュースでした。まずはこの価格改定の背景と狙いを教えてください。
挽野:お客様がロボット掃除機にもっと身近になることが、私たちにとって非常に大事なミッションだと感じているからです。
製品の価値をしっかりお客様にお届けすると同時に、その時世にあった適正価格は常に変化するものだと考えており、昨今のインフレ状況や、お客様がどのようなところにお金を使っているのかを常に注視しています。
その中で、少しでも買い求めやすい価格にすることで、より多くのお客様にロボット掃除機を身近に感じてもらう良いタイミングだと判断しました。
ーー市場が求めている価格帯が全体的に下がってきているのでしょうか。
挽野:「良いもの」にはお金を払うお客様も多くいらっしゃるので、市場の中で全体的にルンバの価格が高いというわけではありません。
全体的な価格の低下というよりは、お客様が今払える金額はどれくらいが一番適正なのだろうか?という点を重視しました。
今回は3機種で新価格を発表しましたが、いわゆる「ベスト、ベター、グッド」の3つのラインナップ。たとえば一番シンプルな「Roomba Combo Essential robot」は、約5,000円の差。グッドを目指すお客様にとっては大きな違いになります。
また、ベター、ベストの中価格帯の機種も約1万円の差も大きいですよね。これら、それぞれの価格帯で適正な価格を考えながら、今回の価格改定を行いました。
ーー市場の反応はいかがですか?
挽野:価格改定後、実販売が大きく伸びており、お客様からの反応は非常に良好です。特にどの機種が伸びているというわけではなく、全機種が均等に売れ行きを伸ばしていますね。
思い切った「値引きなし」の決断、ルンバがより身近な存在に?
価格改定の背景と並んで注目されたのが、一部製品で導入した「指定価格制度」があります。これは、メーカーが販売価格を指定する制度のことで、小売店は指定された価格での販売が基本となります。つまり値引きなし。
一見すると「値引きないのか…」と思いがちなこの制度には、どのような狙いがあったのか? その背景にも切り込みました。
ーー昨年からは一部モデルで指定価格制度が始まっています。どういう課題があって指定価格へ踏み切ったのでしょうか?
挽野:指定価格制度は、長らく社内で議論を重ねてきたテーマです。
さまざまな製品をマーケットに投入しながら、流通様との話し合いや、店頭とオンラインをミックスさせた見通しなどを考慮する中で「常にお客様がどこで買っても同じ価値で買い物ができる」ことが最も重要ではないかという結論に至りました。
5年ほど前から検討を始めてパナソニックさんや日立さんなど、すでに指定価格制度を始められたブランドさんの状況を見たり、小売店さんとの話でフィードバックを聞いたりしながら検討を進めてタイミングを見計らっていました。
その中でルンバという製品に自信があり、この製品はお客様にこれだけの価値を届けられるという確信が持てたため、1年半くらい前に指定価格制度の導入を社内で意思決定をし、半年ほど準備期間をかけて、昨年4月に実行に移したという経緯です。
ーーこの価格でどこでも買える。価格のクオリティが担保されているから安心。というイメージを広めたいという狙いが?
挽野:はい。同時に、お客様のお買い物もシンプルになることも重要だと感じています。
価格が少しでも違うと、お客様は「これは何が違うんだろう?」と疑問に感じてしまいますよね。そうした無駄を省き、製品を見て、価格を確認して、納得して購入できるといった、シンプルな購買体験を提供したいと考えています。
ーー販売店側からの感触と、現在指定価格になっていないモデルも混在していますが、今後の展開を教えてください。
挽野: 導入にあたっては、やはり販売店様との調整に時間がかかりました。指定価格制度に対する理解を得るために、各販売店様と丁寧に話し合い、協力体制を築く必要がありましたから。
また、ご指摘のように、現在では指定価格とそうでないモデルが混在しているので、ECサイトなどで値引きがあるモデルもあります。これらに関しても「わかりやすさ」を重視していく方針は変わりませんので、今後1〜2年ほどかけて他のラインナップも指定価格を適用できるようにしていく予定です。
私はロボット掃除機をより身近な製品にしたいという願いがあります。「セールだから買う」や「タイミングが良いから買う」のではなく、世の中の中の流れの1つとして「常に生活の中にロボット掃除機がある」という身近な状態を当たり前にしたいのです。
ルンバが選ばれる理由とは?
2016年、アイロボット社はルンバの探索技術のベースとなった軍事部門の開発から撤退し、家庭用ロボットの開発に注力するという大きな舵取りを行っています。その背景にあったのは、民生用ロボット市場の大きな可能性。この決断もまた、ルンバがさらなる進化を遂げるきっかけとなっています。
現在では数多くのメーカーが参入し、競争が激化しているロボット掃除機市場の中で、ルンバが長年トップブランドとしてあり続けている理由はどこにあるのか? ルンバが選ばれる理由、ルンバならではのメリットを伺いました。
ーー競合他社が多数参入している中で、ルンバの強みや差別化ポイントはどのような点にあるとお考えですか?
挽野:ルンバの最大の強みは、長年の開発で培われた技術とノウハウ、そして蓄積されたデータにあります。
アイロボットは34年間ロボット開発に携わってきており、ルンバは世界中で最も多くのユーザーにご利用いただいているロボット掃除機です。膨大な技術、知識の蓄積と、清掃データの蓄積、そしてお客様からのフィードバックが蓄えられており、それらをもとに、賢さや回避性能など、さまざまな面で高い精度を実現しています。ここはやはり世界中で愛用されているからこそであり、自信のあるところですね。
また、ブランド力も大きいと思います。日本市場でのルンバは2002年の国内販売開始から20年以上になり、おかげさまでロボット掃除機の代名詞にもなっていますし、「XX(他社さん)のルンバください」というお客様もいらっしゃるくらいです。こうして積み重ねてきた実績は、ブランドとしての安心感として大きいのではないでしょうか。
ーーロボット掃除機は時間を作り出す「時産家電」とも呼ばれていますが、挽野さんが実際に活用している時産家電はありますか?
挽野:やはり食洗機は楽ですね。衛生的にも良いと思いますし、水もあまり使わない。家では基本私が洗いもの担当なので重宝しています。すでに我が家では3代目です。
また、ドラム式の洗濯乾燥機もいいですね。これらは人々の時間を便利に作り出すことができていると感じています。その中にロボット掃除機もしっかり入っていきたいなと思っています。
進化を続けるルンバ
ーーロボット掃除機は競合も増えていますが、今後ルンバという製品に関して、注力していきたい分野や機能はありますか?
挽野:競争が激しくなっていることは非常に良いことで、市場が盛り上がるのは素晴らしいことだと感じています。しかし、ライバルは強いですから、私たちも常に進化を続けなければなりません。
ーー個人的な分析ですが、アイロボットには安全にかつ確実に掃除するというミッションがあり、開発スピード面への足かせになっていたのかなというイメージがあります。
挽野:おっしゃる通りです。今までのアイロボットはそうでした。
創業者のコリン・アングルが90年から2024年の1月まで社長を務めていましたが、すべて自分たちで作るという開発体制で、より確実に、良いものを、少し時間がかかってもお客様にお届けするということをやっていました。
しかし、彼が退任し、5月から新しい社長が就任したのですが、市場の中でロボット掃除機の存在感を上げるには、これからより早く良いものを出していくべきだという方針に大きく転換しています。
実は昨年1年間かけて、会社として、製品の開発スピード、モノ作り、デザイン、製造方法などを見直しました。より早く新商品をお客様にお届けできるように整理したのです。これからはちょっと違う手法で開発を考えていくという風にご理解いただければと思います。
それによって、今後はよりスピーディーに新製品を世の中にお届けできるようになります。
ーー拭き掃除ロボット「Braava(ブラーバ)」や空気清浄機「Klaara(クラーラ)」など、ルンバ以外の新モデル展開は考えておられますか?
挽野:現在はルンバという製品の開発スピードを上げることに、一番エネルギーをかけていますが、それが一段落したら。2年、3年、4年くらいのレンジで、周辺製品の開発にも力を入れていきたいと考えています。
家の中の環境を綺麗にするだけでなく、より安全で清潔で、効率の良い環境を作ることを目指しています。
ーー以前、コリン・アングル氏から「家のロボット化」的なスマートホーム構想を伺いました。すべての製品がルンバと繋がってハブとなるような構想はまだ存続していますか?
挽野:商品としてご紹介できるのはもう少し先になるかと思いますが、まだまだ構想はありますね。
多様化するルンバの買い方。一家に一台への普及を目指す
ーールンバは新品購入、サブスクリプション、そして公式整備品という3つの選択肢が用意されていて買い方の多様さがユニークですよね。買い方の間口が広がっていて、良い取り組みだなと感じました。
挽野:ありがとうございます。公式整備済リユース品も人気でして、専任のスタッフが徹底的にクリーニングして、消耗品は必要に応じて新品に交換しています。整備品に出す製品の判断ラインも厳しくて、程度の良いものしか中古品として出さない、という方針です。
また、実はルンバの迎え方として、新たにふるさと納税も始まっています。
千葉県東金市にルンバの修理や整備を行っているパートナー企業があるのを御縁として、東金市さんにふるさと納税の返礼品としてルンバを提供しています。東金市のふるさと納税人気ランキングではダントツトップなんです。
ーー最後に、今後のアイロボットジャパンの長期的なビジョンや日本における目標をお教えください。
挽野:まだまだ成し遂げていないことがたくさんあります。
現状ロボット掃除機は、世帯普及率で10%を超えたくらい。自分で掃除機をかけるのが中心で、ロボット掃除機は補助的な存在です。
そうではなくて、ロボット掃除機が中心になって、スティック掃除機が補助のような存在になればいいなと。スローガンを掲げた2018年から言い続けていますが、「一家に一台のルンバ」。これをぜひ実現したいと思っています。
変革の風吹くルンバ、より身近な存在へ
今回のインタビューであきらかになったのは、ルンバの値下げや指定価格制度が、単純な価格調整ではなく、市場動向と顧客ニーズをより深くリサーチした戦略であること。特に指定価格制度が「どこで買っても同じ価格」という分かりやすさ(=選びやすさ)がルンバの新しい価値となること。
これまでは、少しでも安く購入しようとすると、セールを待ったり、複数店舗で価格を比較検討する必要がありました。結果、考えることが複雑になったり、「買い時がわからない」「買い時を逃してしまって導入できなかった」などのデメリットが生じているのも確か。
それが、指定価格制度の導入により、「導入前の手間」を省けるため、自分のライフスタイルにマッチしたルンバ選びに集中できるようになります。これはタイパを重視する現代のビジネスパーソンにとってはプラスに働く側面も多いはず。
同時に、製品自体の開発スピードの見直しが進むなど、アイロボット社が新たな変革期を迎えていることも伺えました。これらは「一家に一台のルンバ」という目標に向けた、大きな一歩と言えるのではないでしょうか。
そして、その「一家に一台のルンバ」が当たり前になった未来。その時、私たちの生活から掃除の煩わしさはすでになくなっているのかもしれません。
▼現在、ルンバ新生活応援キャンペーン中(4/15まで)!