内情に詳しい関係者の証言から、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の人工知能(AI)・機械学習(ML)サービスおよびインフラ担当バイスプレジデントが社内の組織改編を機に退社することが明らかになった。
Business Insiderの取材によれば、退社する幹部はグーグル(Google)から移籍してまだ1年足らずのバスカル・スリダラン氏。アマゾンの広報担当に事実関係を確認したが、返答は得られなかった。
リンクトイン(LinkedIn)のプロフィールによれば、同氏は生成AIアプリケーション構築サービス「Bedrock(ベッドロック)」や、データ前処理・作成および機械学習モデル構築・学習のための統合基盤「SageMaker(セージメーカー)」など生成AI分野の主力製品を統括している。
同氏は16年弱のマイクロソフト(Microsoft)勤務を経てグーグルに移籍。クラウドプラットフォームエンジニアリング担当バイスプレジデントを6年弱務めた後、冒頭で若干触れたように、2024年5月からAWSのバイスプレジデントとしてAIサービスなど戦略事業の陣頭指揮を執ってきた。
スリダラン氏の突然の退社は、3月4日に各社報道で判明したAWSの新組織「エージェンティック(Agentic)AI」設立に伴う大規模な組織改編と深く関係している模様だ。
新組織は大手テクノロジー企業が開発競争を繰り広げる「AIエージェント」に注力するためのチーム。人間の介入なしに特定のタスクを実行するこの自律型AIシステムは、ロイター報道(3月4日付)によれば、AWSにとって「次の数十億ドル規模のビジネスに成長する可能性を秘めている」という。
Business Insiderが独自入手したアマゾンの社内メールによると、エージェンティックAIを率いるのはAIおよびデータ担当バイスプレジデントのスワミ・シバスブラマニアン氏で、AWSのマット・ガーマン最高経営責任者(CEO)の直属となる。
今回退社するスリダラン氏はこれまでシバスブラマニアン氏の直属だった。
Business Insiderが入手した別の社内メールによれば、スリダラン氏が担当してきたBedrockおよびSageMakerの両サービスは、AWSの仮想サーバ構築サービス「Amazon EC2」を統括するバイスプレジデント、デイビッド・ブラウン氏率いるコンピューティング&ネットワーキングサービス部門に編入される。
スリダラン氏の直下でAWSインフラサービス部門を率いてきたプラサド・カルヤナラマン氏は、ネットワーキングサービス担当チームも複数統括することになる。
また、AWSテクノロジー担当バイスプレジデントのマイ・ラン・トムセン・ブコベック氏はデータサービス担当を統括部署に加える。
なお、同社の生成AI分野における主要サービスのうち、企業向け対話型AIアシスタント「Amazon Q(キュー)」は新設されたエージェンティックAIの傘下に入る。
スリダラン氏の退社は、AWSにおける幹部人材流出の最新事例と位置づけられる。
2024年1月、最高財務責任者(CFO)のリチャード・プッチオ氏が半導体大手アナログ・デバイセズ(Analog Devices)のエグゼクティブバイスプレジデント兼CFOに転身。
同年5月、データ分析プラットフォームのタブロー・ソフトウェア(Tableau Software)の経営トップを経てAWSに復帰したアダム・セリプスキーCEOが退社した。
さらに同年11月には、インテル(Intel)のバイスプレジデントを経てAWSの最高マーケティング責任者(CMO)に就任したレイジーン・スケラーン氏がスリダラン氏と同じように移籍からわずか1年半で同社を去っている。
また、時間軸が前後するものの同年10月に退社したAI担当バイスプレジデントのマット・ウッド氏は、コンサル大手プライスウォーターハウスクーパース(PwC)のコマーシャル・テクノロジー・イノベーションオフィサーに転身して話題を呼んだ。