中古スマートフォン市場が加熱している。
MM総研によると、2023年度の中古スマホ販売台数は前年比16.6%増の約270万台。2024年度には315万台、2028年度には438万台に拡大する見込みだとしている。メルカリをはじめとしたフリマサイトでも、2023年には4プラットフォーム合計で流通金額が200億円を超えた。
中古スマホに狙いを絞った事業者も活況だ。ゲオHDでは、2024年3月期のリユース事業のうち、ゲオやゲオモバイルを中心とした中古スマホ・タブレットの売上高は前期比12%増加の約350億円。2025年3月期の上半期は同40%増と成長が加速している。
伊藤忠商事100%子会社で中古スマホ買い取り・販売サイト「にこスマ」を展開するBelong(ビロング)も、2019年の設立から市場拡大を追い風に成長を続ける。創業5年目ながら、2023年度は売り上げは前年比で約2倍に。創業初年度と比較すると50倍近くにまで伸びた。すでに黒字転換も果たしたという。
中古スマホ市場で何が起きているのか。
盛り上がる中古市場。きっかけは…
ゲオでは、リユースビジネスを拡大する中で、以前より中古スマホ端末の買い取り・販売を進めてきた。2015年にはゲオモバイルを立ち上げ、中古スマホと格安SIMのセット販売を拡大している。
ゲオで中古端末事業を担当する藤巻亮さんによると、大きな変わり目は2019年10月だったという。法改正により、スマホの端末料金と通信料金を分離して販売することが義務付けられたことで、当時乱立していた端末費を「実質1円」などの格安で提供する事業者が、販売方法を変えざるを得なくなった。
2019年といえば、アップルから「iPhone 11」が発売された時期でもある。カメラの性能の進歩以外に、新機種でなければできないことが減ってきた。
通信料金と端末料金の分離によって端末料金の高さが際立つようになり、中古市場への流れが加速したという。
Belongが誕生したのも2019年2月。テストマーケティングをする中で、世の中の空気感の変化に加えて、メルカリなどのフリマアプリを通じた流通市場の活性化も創業のきっかけの一つになったと、Belongのコンシューマ事業部門長の大野正稔さんは説明する。
中古スマホを求める理由は人それぞれだ。
「中古スマホを買いに来るのはリテラシーが高めの30〜50代の男性や外国人のお客様がメインです。昔から中古スマホを購入していて、抵抗がない。
ただ最近は、新品価格の高騰や物価高などもあって、節約志向の高い主婦層、女性のお客様の購入も増えています」(藤巻さん)
ゲオHDの藤巻さんは、昨今の需要の変化をこう語る。
他方、大野さんによると、Belongが運営するにこスマでも、主なユーザーは30〜40代というが。男女比は男性6割、女性4割程度と、比較的女性の割合も大きいという。
また、中古スマホを初めて買う方が7割程度と、比較的詳しくはないユーザーにも購入しやすいようにサービス設計を進めてきた成果が現れているのではないかとしている。
ゲオ、Belong共に、メイン機としての利用が多く、壊れたスマホを買い替えるまでの「つなぎ」としての需要も一定のボリュームがあるという。また最近では、動画視聴用や動画撮影用といった2台目需要もニーズとしては根強い。若者の間では、古いiPhoneで「昔風の写真」を撮影する需要もあるという。
個人での利用だけではなく、ビジネスの現場でも中古スマホ需要は広がっている。
Belongの大野さんは、個人で飲食店などを経営する事業主が会計・注文システムの導入や、タクシー内での利用といったように、「電話」としての利用ではなくDXのタッチポイントとして中古スマホやタブレット需要が増えてきていると話す。
「なんでも買い取ってくれる」ゲオのブランドイメージ
中古スマホ市場ではいかに「仕入れ」、つまり買い取り量を担保できるかが販売戦略の鍵となる。
ゲオHDでは2023年から販売、回収両面での消費者とのタッチポイントの拡大を目指し、ゲオモバイルの出店戦略を加速している。2024年度には、ゲオモバイル単独店を45店舗新規出店する計画だ。
ゲオモバイルでは、「格安SIM」への乗り換えのために来店するユーザーが多く、同時に中古スマホの買い取りを進めている。加えて、ゲオではジャンク品のスマホもリサイクル業者に引き渡すことを前提に買い取っており、「ゲオに持っていけば何でも買い取ってもらえる」という認知を獲得できているのではないかと藤巻さんは話す。
既存のリユースビジネスで培ってきた「買い取りに強い」という圧倒的なブランドイメージもあり、中古ゲームや家電などと一緒に、中古スマホがゲオモバイル併設店に持ち込まれることも多いという。
「買取金額を現金でお支払いするのも、お客様にとっては魅力的なのかなと思います」(藤巻さん)
ゲオモバイル単独店や併設店では、各店舗で端末のデータ消去やクリーニングなどにも対応。さらに各店舗に格安SIMの料金形態や中古スマホに詳しい自社で育成した専門員を常駐させることでサポート体制を整え、競合他社との差別化につなげている。
またゲオでは、簡単な質問に答えるだけでスマホの買取価格を自動算出できるスマホ査定アプリを開発。2024年7月にローンチすると、10万ダウンロードを突破している。
ゲオの調査では、自宅にそのまま放置されている「埋蔵ケータイ」が日本国内に約6兆5000億円分あるという。買い取りの動機づけのためにも、「意外と高値で買い取られる」という認知を広げていきたいとしている。
ゲオとしては、ゲオモバイルの店舗拡大によるタッチポイントの強化を進めながら、中古スマホに限らずパソコンやワイヤレスヘッドホン、スマートウォッチなどの中古デジタル家電のラインナップを強化していくことで、事業規模を拡大していきたい考えだ。
パートナー連携で「多角化」進めるBelong
Belongは神奈川県座間市に独自のオペレーションセンターを構え、中古端末の回収やクリーニング、初期化といった作業を集約している。これが競争力の源泉となっていると大野さんは語る。
ゲオのような長年の事業活動による認知度や全国に張り巡らされたリアル店舗といったリソースがない分、仕入れ(買い取り)ルートや販売ルートの多角化によって売り上げを積み重ねていった。
肝になるのはパートナー連携だ。
Belongでは、自社サイトであるにこスマ経由での買い取りはもちろん、アマゾンやメルカリといったECサイトやフリマサイトと連携し、買い取りを進める。
「我々としては、健全な2次市場、中古市場の形成が新品市場の発展につながると思っています。アマゾンとの取り組みでは新品が売れた際に、不要になった端末がちゃんと二次流通に乗っていくように。メルカリとの取り組みでは、出品時の価格交渉やデータ確認の面倒くささを楽にできる」(大野さん)
「知らない」「難しい」「不安」という中古スマホ流通におけるハードルを下げる取り組みだという。直近では、グーグルのPixelシリーズの認定再生品の取り扱いを中古スマホ事業者で唯一スタートしたが、これも消費者の安心感の醸成や抵抗感を緩和するための取り組みだ。
また、BelongではBelong Oneというサービスを通じて法人向けの中古スマートフォン・タブレットの買い取り及び販売・レンタルサービスを展開している。
コロナ禍で在宅ワークが普及し社用スマホ需要が高まったことで、「古い端末が企業の倉庫に大量に眠っていることがある」(大野さん)という。これをまとめて回収できれば、「仕入れ」につながる。
「法人側からすると、セキュリティ面でデータ削除などにきっちりと対応できて、大量の台数を買い取りに出せる事業者は実はそこまで多くはないようです。我々はそういったお客様に対して安心できる買い取りサービスを提供しています」(大野さん)
Belongでは、オペレーションセンターを通じて、企業の情報システム(情シス)担当者が社用スマホを回収したり、多様な需要に対応する初期設定(キッティング)をして再配備したりする作業も請け負う。
「法人向けは、一気に何千台も売れるなど月によって振れ幅が大きい。個人向けは安定的に売れているので、個人、法人の両面やっておくことが事業ポートフォリオとして重要かと思っています」(大野さん)
Belongとしては、今後さらにパートナー連携などを組み合わせて消費者と中古スマホのタッチポイントを増やしながら、中古スマホという選択肢そのものや、その中での自社の認知度を広げていきたい考えだ。