ドナルド・トランプ氏が米大統領選に勝利した。これは、世界中の政治家や規制当局にとっては、2期目のトランプ政権が貿易に与える影響に直面することを意味する。
1期目には、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」政策が中国や欧州連合(EU)との貿易紛争を引き起こし、特定の品目には関税が課された。中国が報復措置を取ったことで両国間で貿易戦争が勃発、互いに数千億ドル相当の関税を課した。
今回、トランプ氏の政策は特に欧州に大きな影響を与える可能性があるとアナリストらはBusiness Insiderに語った。
「中国はすでにかなりの関税に直面し、適応してきているが、欧州はまだ直面していない。もしトランプ氏がグローバル規模の関税を実施した場合、欧州は大きな打撃を受けるだろう」と、マクロ・マーケット・リサーチ会社マクロ・ハイブ(Macro Hive)のCEO、ビラル・ハフィーズ(Bilal Hafeez)氏は述べた。
トランプ氏が掲げる関税案
「私にとって、辞書の中で最も美しい言葉は『関税』だ」とトランプ氏は10月にシカゴ経済クラブ(Economic Club of Chicago)で語ったとウォール・ストリート・ジャーナルは伝えている。
トランプ氏は前回の大統領就任中、不公平な貿易政策とEUを繰り返し批判し、米国製品をEUに参入させることは「きわめて困難」と述べていた。
トランプ氏は、鉄鋼、アルミニウム、そして特定の高級品など、欧州の主要産業を対象に関税を課した。
今回の選挙選では、すべての輸入品に一律10%の関税を課すと述べ、中国製品には60%以上の関税を課す可能性も示唆した。
欧州は主に2つの理由から、トランプ氏のアグレッシブな貿易政策に対して脆弱だと金融アドバイザリー企業デヴェア・グループ(deVere Group)CEOのナイジェル・グリーン(Nigel Green)氏は述べた。
多くの欧州企業、特に製造業、高級品、自動車、テック企業は、米国市場に大きく依存している。関税は、それらの企業にとってコストの大幅な引き上げになり、米国での市場シェアと全体的な企業評価額を下げることになるとグリーン氏は述べた。
同氏は、ヨーロッパはすでに、高いエネルギーコスト、低迷する経済成長、地政学的な不安定さなど、数々の経済的・政治的課題に直面していると述べた。
「トランプ政権下で米国との新たな貿易戦争が勃発すれば、これらの問題はさらに悪化し、欧州経済はさらに不安定化する可能性がある」
アナリストらはまた、トランプ氏がウクライナへの経済支援を削減した場合、欧州は紛争への支出をさらに増やすことを余儀なくされると警告した。また同時に、欧州は米国の中国に対する関税の波及的影響も受けることになり、安価な商品が欧州市場に流入することになる。
モーニングスターDBRS(Morningstar DBRS)によると、医薬品、自動車、化学製品が、関税の影響を最も受けやすい業種。これらはEUの対米輸出の大きな部分を占めている。
トランプ氏が外国製品に対する関税を引き上げれば、他国からの報復リスクも高まり、ひいては世界経済の成長を妨げ、一層のインフレにつながる可能性もある。
「市場関係者が真に恐れていることは、欧州がトランプ政権1期目と同様に直ちに報復することだ」とグリーン氏は述べた。
「欧州企業の株価は当初は打撃を受けるかもしれないが、真の盲点は欧州市場に大きなエクスポージャーを持つ米国企業だ」「欧州から大きな収益を得ているテック企業、消費財大手、高級ブランド、自動車メーカーが打撃を受ける可能性がある」
ペッパーストーン(Pepperstone)のシニア・リサーチ・ストラテジスト、マイケル・ブラウン(Michael Brown)氏は「トランプ氏の主張が同氏の振る舞いよりひどいものになるかどうかは時間が経てばわかる。数カ月後に就任式を控えているが、欧州の政策担当者にとってこの数カ月は非常に落ち着かないものになるだろう」と述べた。
選挙結果が出る以前から、米国の関税の影響を受ける欧州企業の株価はすでに大幅に下落し、市場全体を下回るパフォーマンスとなっている。
現地時間6日朝に選挙結果が明らかになると、欧州市場は米国の先物市場に追随して上昇傾向となったが、その日のうちに反落した。
6日朝、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長は、Xの投稿でトランプ氏を祝福し、欧州と米国は「単なる同盟国以上」と述べ、連携を呼びかけた。
他の地域にも悪影響
欧州と中国以外では、トランプ氏が掲げる関税の影響は、オセアニアとラテンアメリカにも大きな影響を与える可能性がある。
オーストラリアの財務次官、スティーブン・ケネディ(Steven Kennedy)氏は6日、トランプ氏が掲げる関税は同国の経済に影響を与えると述べた。
「関税の大幅な引き上げは、米国経済と中国経済に影響を及ぼすだろう。そして、オーストラリアにも波及的な影響が出るだろう」とケネディ氏は同国上院委員会の公聴会で述べたと現地報道機関News.com.auは報じている。
「きわめて大まかに言えば、関税などの貿易制限が課せられることは、通常、成長率の低下とインフレ率の上昇につながる」
格付け機関フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)は先週、ラテンアメリカでは、2期目のトランプ政権がもたらす新たな関税はメキシコに大きな影響を与えるだろうと警告している。
メキシコ経済は米国との貿易に大きく依存している。フィッチは、関税はメキシコのGDPを低下させる可能性が高いと述べた。
「米国によるアグレッシブで一方的な関税引き上げは、当社のベースライン予測と比較して、メキシコのGDPを0.2〜1.9%減少させるだろう」とフィッチは述べている。