「日本人のコミュニティに溶け込めたか」
日本に留学すると、よくこの問いを投げかけられる。東京大学に4年間留学していた筆者も当事者の一人。「日本人のコミュニティに溶け込むことが難しい」という話は、留学生同士の会話でよく耳にしてきた。
前回の記事で紹介した通り、「日本社会に馴染まないといけないというプレッシャー」と「頑張っても馴染めない挫折」が多くの留学生の悩みになっている。
留学生はどうすれば自分を受け入れてくれるコミュニティを見つけ出せるのか。紆余曲折しながらも自分の居場所を探してきた2人の留学生に話を聞いた。
新歓でも歓迎されない留学生
日本人大学生と同様に、留学生の居場所探しはサークルや部活の新歓に参加するところから始まる。しかし、実際のところ留学生は必ずしも歓迎されない……というのが、しばしば留学生同士で話題に上る実態だ。
シンガポール生まれで東京の大学に通う留学生Yさんは、日本の部活動を経験するなかで、日本の部活文化の「美しさ」を感じた一方で、外国人に対する柔軟性の低さを感じることもあったと語る。
入学当初、ある運動部に入部したいと思っていたYさんは、留学生の友人を誘って体験イベントに参加した。イベント自体は非常に友好的で楽しめた一方、イベント後に不本意なできごとがあった。Yさんらは脇に呼ばれると「日本語が十分上達していないと、(活動をすることが)難しい」という趣旨のことを告げられたというのだ。
ただ、Yさんは言語の問題ではなく、自分たちが外国人であり、部活という文化を理解できないと思われたから、やんわりと断られたのではないかと感じたという。
当時、Yさんは確かに簡単な日本語しか話せなかった。ただ、同行した2人の留学生は親の片方は日本人であり日本語も流暢だった。そもそも、Yさんらが見学に行った部活動はチーム競技とはいえ、高い日本語力を要するものでもない。
伝統にカルチャーショック。それでも「仲間」になれた
その後紆余曲折あり、Yさんらはその運動部に入ることはできた。だが、カルチャー・ショックは、まだ終わらなかった。
Yさんらが入部した部活には、厳しい礼儀作法や上下関係など、さまざまな「伝統」があった。例えば、先輩を見かけた際にはカバンを置いてお辞儀をする必要があったり、練習に遅刻する場合には、長い決まり文句で謝罪をしなければならなかったり ── 。中には日本人でさえ戸惑うような伝統もあった。異なる文化圏からきた留学生であるYさんらにとっては、その戸惑いは大きかった。
「日本人でさえそうした伝統を前時代的だと感じるほどですから、外国人にとっては大きな驚きでした」(Yさん)
Yさんはかつてシンガポールで規律の厳しい、伝統的な中華系の学校に通っていた。そうした経験もあって、厳しい練習や伝統的な文化に慣れていくことができたという。
振り返ってみると困難なこともあったというが、運動部での経験は決して悪いものだけではなかったとYさんは強調する。
Yさんの周りにいた先輩や同期はとても優しく、日本文化や部活の伝統を学んでいく過程で大きく支えられたのだという。
こんなエピソードもある。Yさんは日本語が堪能ではなかったので、遅刻時の謝罪の長文をただただ暗記するしかなかった。その際、同期のメンバーは彼女に言葉の意味を教え、日本語の練習にも根気強く付き合ってくれたという。
学業の忙しさもあって、Yさんは結局1年後に退部することになってしまったというが、自身の経験を踏まえてこう話す。
「運動部の文化には美しいところもありました。言語の壁と文化の違いでこういう体験ができる外国人がこんなに少ないというのは、残念なことだと思う。こういった違いの間を取り持つ方法がもっとあれば、(日本独特の)部活のユニークさと美しさをより多くの人に味わってもらえるのではないでしょうか」(Yさん)