ソニーグループ(以下、ソニーG)は、4月1日から、社長COO兼CFOの十時裕樹氏を、社長CEOとする人事を発表している。
現・会長CEOである吉田憲一郎氏からの完全な経営体制移行ということになる。
「(CEOになることで)経営の最高責任者の重みを感じている。平井(一夫)さん、吉田CEOがつくってきた価値を引き継ぐ覚悟を新たにした」
十時社長は、CEO就任への意気込みを問われそう話す。
2月13日に開かれたソニーGの2024年度第3四半期業績説明会には、吉田会長と十時社長がそろって登壇。吉田CEO時代の7年間を振り返りつつ、これからの経営姿勢についても質疑に答えた。
吉田会長と十時社長は、2012年から2018年までソニー(現ソニーG)社長兼CEOを務めた平井一夫氏とともにソニーGの改革に務めてきた、ある種の「戦友」でもある。
吉田会長、十時社長から見たソニーGの変化と、これからのあり方をまとめてみよう。
「サービス化したゲーム」が業績をけん引
ソニーG・2024年度第3四半期の業績は好調だ。
第3四半期の連結売上高は4兆4096億円で、前年同期比で18%(6620億円)増。2024年度通期見通しも13兆2000億円とし、2024年11月から4%(4900億円)上方修正した。
今四半期の純利益は3737億円で前年同期比3%増ではあるが、通期見通しでは1兆800億円と前年比10%増(1000億円)と、過去最高益となる見通しだ。
好調をけん引したのは「ゲーム」「音楽」「映画」の3部門。特にゲームは売上高1兆6823億円(前年同期比で2379億円増)、営業利益1181億円(同・319億円増)と、大きく貢献している。
ゲームは年末商戦に売り上げが立ちやすく、好調は「季節要因も多く、第4四半期には少し落ちるだろう」とするものの、「来期(2025年度)はソフトの充実する時期」(いずれも十時社長)とさらなる売上拡大への期待を見せる。
PlayStation 5本体は年末を含むこの四半期で950万台を販売した。
売り上げと利益率の向上にはハードウェアの値上げを含む高単価化が影響していると予測できるが、十時社長は台数自体だけを好調の要因とはしていない。
「昔は台数を積み上げていくものだったが、いまはMAU(月毎のアクティブユーザー数)を積み上げていくサービス型のビジネスモデルになっている」と十時社長は言う。
PS5購入者の4割以上が新規顧客であること、PS4と同じ発売期間での販売台数がほぼ同数であるにも関わらず、MAUは43%向上していることなどを挙げ、継続的な収益安定傾向にあることを強調した。
同様に、音楽事業ではストリーミングビジネスからの売り上げが安定成長していること、半導体事業ではモバイル向けイメージセンサーの売り上げの成長基調が続いていることなどから、グループ全体での成長傾向の強さを感じる発表内容だった。
「ゲーム」「アニメ」事業が現在を支える
決算からもわかるように、現在のソニーGにはエンタテインメント領域を含めた多様な柱が存在する。
2010年代に入るまでのソニーは、ゲームが強いとはいえ、一般には「エレクトロニクスのソニー」であったように思う。
それが変わってきたのは、2012年に平井一夫氏がトップに就任してからだ。吉田社長も十時社長も、その時にはソネットエンタテインメント(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)の経営に携わっており、同時期にソニー本社へ戻ってきた形である。
吉田会長は「正直、ソニーに戻る気はなかった」と苦笑する。その言葉は、十時氏から筆者も聞いたことがあり、2人の共通する思いだったのだろう。
「だが、ソニーに貢献したいという思いはあった。そこから構造改革をしていったことが今につながっている」(吉田会長)
吉田会長は構造改革のために多くのM&Aを行ったが、その中でも思い入れが深いものとして、2018年に行ったイギリスの音楽大手「EMIミュージックパブリッシング」の買収を挙げる。
EMIミュージックパブリッシングは「クイーン」や「ピンクフロイド」「アリシア・キーズ」などの楽曲版権を管理していたが、買収によってソニーG傘下となり、同社の楽曲版権収益拡大に寄与している。
「ソニーという社名は、ラテン語の『Sonus』(音)に由来している。その後、『トランジスタラジオ』『ウォークマン』『CD』と、音を届けるビジネスをしてきた。
一方で、1968年にアメリカ・CBS(Columbia Broadcasting System)と合弁でCBS・ソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)を設立、アーティストに近づくことも学んできた。
2018年のEMIミュージックパブリッシング買収は、クリエーションシフト、あるいはエンタテインメントへフォーカスする機会となった」(吉田会長)
エレクトロニクス製品を売るところから、作品を売るのと同時に、アーティストが作品を作るための環境提供へとソニーGのビジネスは移っている。大型買収もまた、そのために重要なファクターだったことが分かる。
ただ、その前にも「エンタテインメント」こそがソニーの軸であった、という見方も示す。そのために必要だったのが多様性だ。
「私は、20世紀のうちに2つ、多様性をもたらすものが産まれていたと考えている」と吉田会長は言う。
「その1つはPlayStation。これは(事業主体としては)ミュージックとエレクトロニクスから産まれました。
そしてもう1つがアニメ。これも、ミュージックとピクチャーズのシナジーによって産まれています。アニメとゲームは非常に近い領域であり、さらに価値が高まっている」(吉田会長)