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第九十九話

 教皇継承の儀式の日取りが刻一刻と迫ってきております。 


 ハーデスの使っていた死者の魂と会話をする術式を使うためには神の魔力を運用出来るようにならねばなりません。


「集中……、集中して全身の魔力を増幅」


 古代魔術の要領で全身の魔力を増幅させます。

 指先から範囲を少しずつ広げて、今日ようやく全身の魔力を神の魔力に変換してみようと挑戦しています。


 マナを吸収し続けて、本来の魔力の数倍に引き上げました。


「次は退魔術の要領で全身の魔力を圧縮します」


 今までどおりやれば大丈夫なはずです。集中力を途切れないようにして、ゆっくりと圧縮。


 少しでもコントロールを間違えれば全身の魔力が暴走して爆発を引き起こしてしまいます。


 光のローブで身を守っていますが、失敗したら無傷ではいられないかもしれません。


「……ようやく出来ました。これまでの鍛錬がなかったら、こんなに短い期間で修得は無理だったかもしれません」


 完璧な聖女を目指して、厳しい修行に耐えた今までの人生が今回の練習に活かされました。


 集中力を途切れさせないようにしながら、繊細な作業をする修行は毎日こなしていましたから。それに慣れていたので今回の練習に打ち込めたのです。


「驚いたわね。それが神の魔力ってやつ? アスモデウスを圧倒していたときと遜色がないほどの力を感じるわ」


「さすがはフィリアさん。いやー、エルザ先輩、凄いですね。本当に神の魔力を運用出来るようになるなんて」


「エルザさん、クラウスさん……」


 自らの魔力を神の魔力に変換することに成功した私にエルザさんとクラウスさんが声をかけられます。


 二人は私に退魔術を教えてくれて、練習に何度か付き合ってくれていました。


「で、死者の魂と会話をする術式は成功しそうなの? 神の魔力を運用するのは基本中の基本。神の魔力を利用して“神の術式”を使用するとなると更に難易度が跳ね上がるわ」 


 エルザさんの言うとおり。神の魔力を運用出来るようになって、ようやく私はスタートラインに立てたにすぎません。


 神の魔力の運用は“神の術式”を使うための最低条件。そこから、術式を発動させるにはもっと緻密なコントロールが要求されます。


「確かに簡単ではありません。ですが、成功させる自信はあります」


「へぇ、随分と自信満々ね」


「死者の魂と会話をする術式は“神の術式”の中でも特に簡単な魔法ですから。時間内に修得するのは決して不可能ではないかと」


 同じ“神の術式”でも難易度にはかなり違いがあります。


 例えば、ハーデスが使ったとされる“死者蘇生の術式”や“即死の術式”という人智を遥かに超えるような魔法は工程が複雑すぎて、恐らくは人間の寿命では修得するのは困難でしょう。


 それと比べて“死者の魂と会話をする術式”はかなりシンプルですから。神の魔力の運用を覚えたばかりの私でも現実的に修得可能です。


「“神の術式”で教皇様の魂と会話か。どうなるのか、想像もつかないなー」


「天に召された魂を呼び寄せて、会話をするのですが、きちんと皆さんも聞こえるくらいの大きさの声みたいですよ。辺り一面に響き渡ったという記述がありましたから」


 長い歴史の中で神の術式を実際に使用したのを確認した例は少なかったのですが、“死者の魂と会話をする術式”が使われたという記述を文献の中で確認は出来ました。


 それによると、かなりの広さに声が響き渡ったとあったので、教皇様の魂との会話が私しか聞き取れないというような事態は回避出来そうです。


「な、なるほど。でも、どうします? もしも、ですよ。フィリアさんの術式が成功してヘンリー大司教の不正が発覚したら……。それはもう、大変ですよ。ええ、大変な不祥事として取り扱われるでしょう」


「当たり前でしょ。そんなことを今更言うなんて馬鹿なの?」


「痛っ!? え、エルザさん、お腹殴らないでくださいよ」


「あんたがつまらない御託を並べるからよ。びびっている訳?」


 エルザさんがクラウスさんを心底馬鹿にしたような目で見ていますね。


 しかし、私にはクラウスさんが分かりきった話をわざわざする理由も分かります。


 何故ならそれだけ教皇という存在の遺した手紙を書き換えるという事実が罪として重いからです。


 大司教はクラムー教において教皇に次ぐ存在です。信徒たちから厚い信頼を寄せられている人間で、その肩書の持つ者が教皇の信頼を裏切るなど絶対にあってはなりませんでした。


「ヘンリー大司教が不祥事を起こしたことが周知されるとその罪はやはり相当重くなりますか?」


「あなたらしくない質問ね。死罪以上の刑罰が求められるのは確実。分かっていて聞いているんでしょう?」


 クラムー教の権威に関わる問題として処理されるのは想像が出来ました。

 いえ、エルザさんが言うとおり目を逸らしていたのかもしれません。


 私が教皇に真実を話してもらうという行為はそのままヘンリー大司教に死刑宣告をするのと同義だという事実をあえて考えないようにしていたのだと、そう思えてならなくなりました。


「エルザさんの仰るとおりかもしれません。理解はしていたのだと思います」


「あなた、もしかして今さら躊躇しているの? 自分の復讐のために関係ない人の人生をめちゃめちゃにしようとしているのよ。ろくな人じゃないわ」


「何とか穏便に済ませる方法はありませんか?」


「ある訳ないでしょう。日和っていては駄目よ。いくらあなたがお人好しでもこれだけは譲れないって強い意志を持たないと」


「で、ですが……」


 ヘンリー大司教はグレイスさんたちの従兄妹であり、ライハルト殿下の婚約者であった人の兄です。


 私とはほとんど関わりがないとはいえ、他人というには近い存在と言えるでしょう。


 それに聖女は人を救うための存在。人を処刑するのはその精神に反します。


「覚悟を決めるって言っていたわよね? あなたの幸せを望む人を裏切ることにもなるのよ。“でも”と“だって”じゃ誰も救えないんじゃない?」

 

「え、エルザさん……」


「あなたの故郷はバカ王子を放っておいて、とんでもない惨状になったみたいだけど……、どうなの? 妹さんの方がよっぽど強いのね。バカ王子と両親を牢獄送りにしたんでしょ?」


 ミアは私よりも強い。そのとおりだと思います。


 あの子のような覇気は私にはありません。

 一人でユリウスに、ジルトニア王国の第二王子派に戦いを挑んで大立ち回りを見せたミア。


 同様の動きを私が取れたかと言えば、それは無理だったでしょう。


「ヘンリー大司教に同情も憐れみも要らないわ。あの人は禁忌を犯した。神を裏切ったのよ。聖女として罪を贖うチャンスを与えてあげることこそ慈悲ではないかしら」


「エルザさん……」


「あなたはあなたの幸せを追及すればいい。これはあたしからの願いでもあるの」


 私は私の幸せを追う? そうしていたつもりでした。

 自分の望みを貫き通すにはまだまだ覚悟が足らなかったみたいです。


「ほーう、珍しいや。姐さんが幸せを願っているなんて言ってやがる」


「マモン、いつからいたの?」 


「んー? いつだったっけなー」


 実はかなり前から後ろにおられたマモンさんの存在に気付いたエルザさんはぷるぷる震えながら振り返り、彼を睨みつけます。


「一回、死んでおく?」

「ぎゃああああっ!」


 私が立ち止まれば、私の幸せを願っている人を裏切る結果になる。エルザさんの言葉は心に突き刺さりました。


 ここまで来れたのはエルザさんやクラウスさん、それにアリスさんが手伝ってくれたからですし、オスヴァルト殿下やリーナさんたちにも支えてもらっています。


 その好意を踏みにじる訳にはいきませんから、私は私のための戦いをします。


 ヘンリー大司教にも譲れない事情があるのかもしれませんが、私は大切な人たちとともに愛する国に帰りたいですから。


 引きません。必ずや“死者の魂との会話をする術式”をマスターして、望みを叶えてみせます。

 考えてみれば、今が一番自分に正直に生きているのかもしれません。


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